専門店としての魅力高めたい
―事業承継までのいきさつは
次男でしたが、どう転んでもいいように、大学は商学部を、就職は食品卸・小売業の会社を選びました。1991年、31歳の時に戻ってくるように言われ、専務として働き始めました。社長に就任したのは48歳でしたが、常に社長のつもりで経営に取り組んできました。
帰ってすぐにバブルが崩壊し、この影響もあり厳しい状況が続きました。対策のため、改善や新事業に取り掛かりましたが、そのたびに先代とぶつかっていました。説得するには結果を出すしかないと、先代には反対されていた味噌スイーツの開発やフリーズドライの味噌汁の販売などを開始。「味噌は買わないけれど甘いものなら買いたい」というお客さまからの反響もあり、実績を上げることができました。
ようやく認められたかなと思ったのは、先代が友人である元市長に手土産としてフリーズドライの味噌汁を持っていった時です。発売から10年以上はたっていました。
―新事業の柱は
2006年から始めた団体様の昼食の受け入れです。以前から要望はあったのですが、03年にイベントで豚汁を出したところ好評で、これならやれると思いました。もともと使ってない部屋があったり、厨房(ちゅうぼう)、トイレ、駐車場がそろっていたりし、設備投資が最小限で済むところも踏み切った理由です。市内では団体昼食を受け入れる施設が少ないこともあり、弊社としては良かったと思います。
旅行会社への営業や、インターネット、パンフレットなどでの宣伝、商工会議所による紹介などで、徐々にお客さまも増えていき、昨年は3万人に昼食を提供しました。地元の食文化に根ざした食事をしたい|という観光客の皆さんの希望に合った事業になったと思いいます。
―商工会議所の支援は
バイヤーブースに自ら売り込みにいける「逆商談会」には毎回参加してお世話になっています。当社は店舗販売や通信販売など直接販売が多いですが、商談会を機に卸売りにも力を入れるようにしました。一度に多くの会社と出会えるので、効率がいいですね。東京のアンテナショップや市内の大手スーパーなどと取引が始まり、毎年販路が増えています。
また、まちゼミ(市内の商店街の店主らが講師となり、市民に役立つ情報を提供する商工会議所主催のイベント)の参加も、皆さんに石井味噌を知ってもらうきっかけになりました。一般の方から味噌造り体験をしてみたいという声を多くいただいていたので、まちゼミで行っています。決して立地がいいわけではないので、まちゼミで初めて店を訪れた方もいて、さらにその後も買い物に来ていただくなどしています。
―今後の展開について
事業承継をした際に会社を株式会社化しました。これには「未来志向の会社になる」という決意を込めています。私が入社した当時、一番若い社員でも50代でしたが、今は新卒採用も少しずつ始めています。創業150年の会社の伝統を引き継ぐためにも良い社員を育てて、さらに発展していきたいと思います。
当社では、味噌蔵の見学、味噌を使った昼食の提供、味噌汁の試食、無添加の三年味噌やオリジナルの関連商品の販売などのコンテンツがあります。ものがあふれ返っている時代において、ここに来る価値があると思っていただけるよう、味噌専門店としての魅力づくりに励んでいきたいと思います。
また、今後さらに味噌、醤油(しょうゆ)などの日本の伝統的な発酵食文化を広げる活動に力を入れていきたいです。
今、市の地産地消食育事業の一環で、小学生に味噌造り体験を行っていますが、小学生でも「こんなにおいしい味噌汁を初めて飲んだ」と言ってくれます。国産大豆の天然醸造のおいしさは格別です。発酵食は健康にも良いとされていますし、日本の昔ながらの食事の良さを、味噌を通じて伝えていきたいと思います。
【いしい・こうすけ】 株式会社石井味噌代表取締役。松本市出身。57歳。慶應義塾大学卒業後、都内の食品卸・小売業の株式会社明治屋に就職し、国際事業本部で酒類の輸入などを担当した。1991年、石井味噌に入社し、専務取締役に就任。その後、インターネット販売の環境整備、スイーツやたれ、ドレッシングの商品開発や新事業を手掛ける。2010年から現職。