有明の満月と朝焼けの槍ケ岳が共演(松本市の美ケ原高原王ケ頭)

「有明の満月」が朝焼けの槍ケ岳に掛かり壮麗な冬景色を際立たせる=2019年11月13日午前6時26分25秒、右は常念岳、槍の肩の赤い屋根は槍ケ岳山荘、ニコンD5、ニコンAF-S ニッコール1200ミリ

月の海掛かる 一瞬のランデブー

朝焼けに染まる北アルプス・槍ケ岳(3180メートル)の穂先と、半世紀前の1969(昭和44)年7月20日に米国のアポロ11号が着陸した月面の「静かの海」が、一瞬の「ランデブー」を見せた。
「有明の月」。夜が明けても空に残る月を指す言葉だが、狙うのは「有明の満月」。昨年11月13日、午前6時26分5秒。空気が澄む冬の時季、月の沈む位置と時間、朝焼け、満月…。幾つもの条件を満たすタイミングはこの時しかない。
松本市の美ケ原高原王ケ頭から1200ミリの超望遠レンズで狙う。槍の穂先の位置が、月面に黒っぽい模様に浮かび上がる「豊かの海」を通り、「静かの海」へと移動していく。午前6時28分15秒、「嵐の大洋」を通過し月面の外に穂先が抜けて、朝焼けの槍ケ岳と満月の共演は終わった。
地球に最も近い天体の月は、太陽暦の今も日常生活に深く関わっている。満ち欠けで三日月、十三夜、十五夜、十六夜(いざよい)と呼ぶ。陰暦十七日の月を「立待月」、十八日は「居待月」、十九日は「寝待月」と、月の出の時刻で呼び方が違う。午前0時ごろに昇る下弦の「二十三夜」は、願い事がかなうという月待信仰も。
日本では昇った月模様を「ウサギのもちつき」、月の入り前の模様を「二宮金次郎」に例える。昔から物語や詩歌に詠まれてきた月は、現代も日本人の美意識を際立たせ温かい 。
(丸山祥司)