[創商見聞] No.58 浦沢 昌徳 (長野県製薬)

おなか元気で 毎日笑顔

―現況は
 コロナ禍で、工場見学の中止や観光客激減に伴う地元観光地での売り上げ減少などの影響は受けました。もともと、一般用の胃腸薬市場は縮小が続いています。
 厳しい環境ですが、当社主力製品の「御岳百草丸」は、多くのヘビーユーザーに支えられ、前期の最終的な売り上げも前年比で数%のマイナスで収まる予想です。多くのお客さまに感謝しています。
―新たな「信者づくり」
 「御岳百草丸」は主原料のオウバクをはじめとする5種類の生薬から作られる胃腸薬です。古くから木曽地域や県内で愛される百草丸ですが、胃腸薬というだけでなく、家庭に伝わる「お守り」のような感覚で親しまれてきた背景があると、感じています。
 かつて年間50万人もの参拝者が信者として「御嶽山参り」に訪れ、その皆さんが百草丸を全国に広めたとされています。参拝者は昔に比べてとても少なくなってしまいましたが、百草丸の価値をこれからも多くの皆さまに伝え、新たな信者(ユーザー)づくりに努めていきたいです。
―これからの取り組み
 百草丸の主な原材料はミカン科落葉樹のキハダです。その樹皮を乾燥させた生薬がオウバクです。縄文時代の遺跡からも出土しており、日本最古の生薬の一つともいわれています。なめると苦いこの生薬の特徴は、含有成分のベルベリンが持つ「殺菌作用」です。胃腸薬の原料となるほか、湿布や精製したものを目薬や化粧品の原料にも使います。
 キハダは食品添加物としても認められており、独特な「苦味」を利用した食品の開発も進めています。
 昭和初期、木曽地域のキハダはほとんど伐採され、姿を消しました。
 そのため30年ほど前からキハダ植林に取り組んでいます。ずいぶん増えはしましたが、キハダは植樹から収穫まで20~30年必要で、大変な手間と費用が掛かります。さらに生産者の高齢化といった課題も悩みです。
 このキハダの植林に関して、単なる薬の原材料として捉えるだけでなく、森林環境の保全にもつながるような取り組みを、本年度より始めます。具体的には、我々のようなメーカーに加え生産者、行政、大学等が連携し、循環可能な資源供給と採算性ある産業化の仕組みを構築することが目標。まずは研究会を立ち上げて、生産者や関係団体とキハダの研究や商品開発を始める計画です。
―会社の意識改革
 御嶽信仰のお土産として全国に広がった御岳百草丸は、薬局販売から大型ドラッグストアでの販売へ。さらにはネット販売の拡大と、市場は目まぐるしく変化しています。伴って社員の意識改革の必要性も感じていました。
 経営企画部門の責任者が商工会議所のセミナーに参加し、経営研究や異業種との交流を経験してもらっています。
 その社員が「周囲が全員先生でした」と話したように、講師だけでなく、他の参加者も経営者が多く、大きな刺激を受けたようです。
 例えば、講義の中で、参加会社の新事業立ち上げに向け、企画を提案し合う場面があったそうです。
 さまざまな提案を受け、経営者は経営理念と提案内容を照らし合わせ、「この意見は経営理念に沿うから採用」「こちらは理念と離れているから見送り」などと判断する場面に立ち会えた。
 企業としての経営計画を実現させるためにも、経営理念の大切さを社員が再確認できたことは、とてもよかったと思います。今後迷った時に「ぶれない」施策を実行できるよう、社全体で強い経営を目指したいと考えています。そのためにも、商工会議所のセミナーなどへ積極的に社員を参加させていきたいです。
―慢性的な雇用問題
 薬剤師等の資格者を雇用することは、都市圏でさえ難しいのが現状です。まして人口減少や高齢化が進む木曽地域では本当に難しい。ただ給与を高くすればいいというわけではない。やはり「ここで働きたい」と思ってもらわなくては来てもらえない。今後も就労環境の充実を目指していきます。
 1990年代に新設・増築した工場や社屋も経年劣化が進み、建て替えも視野に入れています。本年度は新たな機械も導入して製造ラインを整え、効率化を目指していますが、建物や設備等、工場の根本的な改修も視野に入れておかなければなりません。
―百草丸=オウバクをなぜ広げたいか
 人は食べなければ生きていけません。食べるという行為は外部から栄養を摂取するということ。栄養と同時に雑菌やウイルスなども取り込むことになります。
 だから食物から栄養を吸収する腸には、体の免疫機能の7割が集中していると言われます。
最近「腸内環境」とか「脳腸相関」などの言葉をよく聞くようになりました。腸の環境を整えることは、一生の健康につながる。そしてオウバクにはそれを助ける機能があります。
 ですから当社のキャッチフレーズは「おなか元気で 毎日笑顔」。
 医薬品なのでなかなか難しいのですが、衛生状態の良くない環境で生活している子どもたちの映像を見ると、すぐにでもオウバク製品を持っていってやりたい。
 オウバクを使った製品で人類の健康づくりに貢献する。こんな思いを世界につなげ実現させるためにも、日々研究に取り組んでいます。

【うらさわ・まさのり】 60歳、木曽町出身。昭和薬科大学薬学部卒。1985年入社。 2017年4月、11代目として代表取締役社長に就任。

長野県製薬株式会社

木曽郡王滝村此の島100-1
☎0264ー46ー3003