[創商見聞] No.81奥原ゆかり (TOKIWA FLOWERS)

花は心の栄養一本一本大切に

【おくはら・ゆかり】53歳、大町市常盤出身。大町高校卒。約10年生け花を学んだ後、イギリスのフラワーデザインブランド「JANE PACKER FLOWERS」に師事。2019年大町市常盤に同店を開業。

TOKIWA FLOWERS

大町市常盤3350-25 ☎0261-22-6180

―生け花から英国へ
 地元大町市の高校を卒業後、電力会社に就職しました。営業や総務などさまざまな部門を担当。経営する立場となって、この経験がとても役に立っています。
 20歳から10年ほど生け花を学びました。師範の資格も取得したのですが、先生から「これからは古典的な生け花だけでなく、新しい時代に向け、世界で通じる花の技術と知識を学びなさい」と言われ、イギリスのロンドンにある世界的なフラワーデザインブランドの「JANE PACKER FLOWERS」で学ぶことを決めました。初回はまだ会社勤めだった29歳の時、勤続10年のリフレッシュ休暇を利用して渡英しました。
 ドバイ、オーストラリア、アメリカなど世界中のフローリストたちが生徒として集い、いろんな話を聞くことは刺激的な体験でした。
 でも最初は「フラワーデザイン」に抵抗感のようなものがあり、なかなかうまく作れませんでした。「なんでこんなにうまくいかないのか」と、自己嫌悪に陥ったくらいです。どうもイギリスっぽく見せようと意識し過ぎていたようでした。
 それでも30回以上渡英を重ね、同じ先生たちに何度も指導を受け、成長具合を見守ってもらえました。
 ブランドの創業者ジェーン・パッカーさんは残念ながら12年前に他界されましたが、直接指導を受けたこともあります。
― とんかつと英語
 最初の渡英時は、TOEICで200点もいかないくらいだったので、とても英語に苦労しました。
 当時は南松本駅近くの社員寮に住み、働きながら英語を学んでいました。自炊する時間を惜しみ「とんかつめぐろ」(松本市芳野)さんのカウンターで、ひたすら勉強しました。
 座るだけで決まった食事が出てきて、「キャベツ3回おかわり」も定番化されるようなヘビーユーザー。ずっとカウンターで英語の本を読んでいて閉店まで1人でいる女性は、お店にとってはとても不思議な客だったようです。
 ただ、何かにチャレンジしている姿は印象的だったそうで、創業を報告した時には、「やっと時が来た」とすごく喜んでくれ、店のオープン時にもお祝いに駆けつけてくれました。
 めぐろの大将、南山清さんは尊敬する経営者の1人です。創業時には、「ぬくもりある店づくりが一番大事」と助言をいただきました。南山さんの大切な教えを常に頭に置き、店の備品購入から今後の計画など、細部から重要事項まで、「ぬくもり」を大切なキーワードにして、仕事に取り組んでいます。
―TOKIWA(常盤)で創業
 2013年に会社を辞め、大町市常盤の実家に戻りました。花の勉強は続け、日本とイギリスの往復を繰り返しました。
 日本にいる間はいろんな花屋さんで、パートとして経験を積みました。最後は安曇野市明科にある花屋さんで約6年間お世話になりました。
 19年にコロナ禍になり、仕事が激減。お世話になっていたお店も支援金申請などでご苦労されている様子でした。
 好き勝手にイギリスに行き、気軽にパート勤めしている自分が申し訳なく、お店は20年8月に辞めました。その後どうするか考えた時―。
 「常盤で、花屋ができたらいいな」と、創業を考え始めました。
 少し前に、長野市で友人がカフェをオープンさせました。その際、「商工会議所に相談して、とても良かった」と教えてくれました。大町商工会議所に行き、創業指導を受けました。


―準備レポート34枚
 大町商工会議所では、知りたかったこと、不安に思っていることに対し、丁寧に答えてくれました。
 創業塾を受講し、資金計画から損益や営業展開などを自分で考え、34枚のレポートを提出しました。
 事業計画のシミュレーションは特に綿密に指導してもらいました。「この事業がうまく展開できなかったら、次はこれに取り組む。さらにできなかったら次はこっち」などと、不測の事態に対応するため、事業計画は3案出すことなども教わり、とても勉強になりました。
―空間装飾やブーケ
 21年9月に創業し、1年半経過しました。コロナ禍で難しい面もありましたが、会議所と立てた計画も良かったので、大きくがっかりすることもありません。
 花の売り上げとともにフラワーアレンジメントのレッスンを重視する事業計画も良かったと思います。現在、お店で開く教室はほぼ定員に達しています。今後は、出張教室なども展開したいです。
 ホテルやカフェ、レストランなどの空間装飾の仕事も増えました。また、結婚式のブーケは当初想像した以上に依頼があって驚いています。
 実はイングリッシュスタイルのブーケは日本の花束とはいろいろと異なるので、大町地域では受け入れられるか心配もありましたが、地域の方々からもSNSなどで調べてもらい、注文をいただいています。 
 店舗のイメージや花嫁さんのイメージ、また大町の空気感に合う空間装飾やブーケを、これからも提案していきたいです。
―TOKIWAから世界展開
 花は心の栄養だと思っています。花を飾る文化をさらに広げたい。飾る楽しさだけでなく、もっと気軽に花屋さんに出かける文化をつくりたいです。昨年の母の日にはカーネーションが完売しました。お父さんが息子を連れて買いに来る光景がとても多く、良いシーンでした。
 イギリスでは、バレンタインに男性がスマートに花を贈る習慣があります。常盤から発信したいです。
 過去にイギリスで2回、結婚式全体の花の演出を担う「装花」を担当しました。6月に、スペインで結婚式装花の予定があります。花一本一本を大切に、これからも生涯をかけて、世界中で花を生けたいと思っています。