[創商見聞] No.61 大宮小依・大宮康亘 (田立屋)

「創商見聞 クロスロード」の第61弾は、昨年7月にフルリニューアルオープンした松本市の化粧品専門店「田立屋」を特集する。経営に携わる大宮小依さん(常務取締役)・康亘さん(取締役)姉弟に、城下町で老舗化粧品店を継承していく思いを聞いた。

【おおみや ・ さより】42歳、資生堂SABFAサロンコース卒業。2004年帰郷後、同社入社。12~16年資生堂メークチームでニューヨークコレクションに参加。18年常務取締役就任。

――姉・小依さん
コロナ下で化粧のスタイルが変わる中、お店をリニューアルオープンしました。化粧品店として当たり前だと思っていたことができなくなり、改めて化粧のある生活の豊かさを感じ、お客さまの声に支えられていたことを再確認しました。
 緊急事態宣言下で営業を制限していた時も、あるお客さまから「外出制限でお店(田立屋)に行けないから近くで買えるものを使ってみたけど、やっぱり自分に合う品が使いたいから行くわ」と、ご連絡いただけたことはとてもうれしかったです。
 一方、「出掛けないのでメークしなくなった。スキンケアも最低限でいい」との声もありました。ご来店の間隔が空いたりして、お客さまの〝化粧離れ〟も感じました。
 お店でメークのタッチアップができなくなり、エステも、化粧品メーカーの方針もあって、多くが制限される状況。「自分たちの店にできることは何か」をとても考えさせられました。
 実際に触れられない中で、商品の魅力をどうお伝えしたらいいのか―。各メーカーそれぞれの規定がある中でスタッフと一緒に考え、お客さまご自身でしていただくスタイルを組み立てました。
 その結果、「今までメークをやってもらってきれいになれたけど、自宅で自分が再現するのは難しかった。実際自分ですることで、できる気がする」というお声もいただけました。コロナは新しい学びにつながる一面にもなりました。
人生100年時代と言われる中、年代ごとの特性を理解し、それぞれの「肌悩み」に寄り添いたいと考えています。
 お客さまの生活の中で、自分の肌をいたわる時間が大切だと思ってもらえること。それぞれのライフスタイルに合わせ気持ちよく効果的に使える化粧品で、「お客さまが輝いて過ごせるお手伝いをする店」でありたいと思っています。
 店をリニューアルし、初めてメークをする高校生のお客さまも増えました。思春期ならではの肌トラブルもありますから、美容の正しい習慣を身に付けるアドバイスを心掛けています。その心掛けはどの年代に対しても一緒で、各世代に寄り添えるメークライフを提案していきたいと思っています。
 60代、70代で、元気はつらつとされているすてきなお客さまもたくさんいらっしゃいます。長く通ってくださるお客さまに感謝の心を忘れず、これからも年代を問わずご来店いただけるお店でありたいと思います。
 スタッフも率先して積極的に活動してくれています。「化粧健康法」という講座を開催しています。例えば、化粧でコットンを使用するとき、肘周りのストレッチなどをする方法で、毎日の化粧時に動作を取り入れ、健康を目指す化粧療法です。
 対面でしかできない大切な要素を提供するのが「田立屋」。お客さまの悩みに寄り添い、肌の感触を確かめ、化粧品の使用方法からメークの仕方まで細かく伝えていきたいです。
 気持ちが乗らない時こそお店に来て美意識を高めていただける存在でありたいと思っています。
 「化粧生活を明るく楽しく」。全スタッフ同じ気持ちを共有し、先代から言われてきた「化粧は文化。人と人とのつながりを引き継ぐこと」を大切に、これからも精進したいです。

【おおみや ・ やすのぶ】32歳、神奈川大学卒業後、飲食業界とインテリア業界で経験を積み、帰郷。2018年入社、20年取締役就任。

――弟・康亘さん
私は2018年に家業を継ぐため田立屋へ入社しました。それまでは、東京で飲食業界とインテリア業界で働いてきました。
 もともと家業を継ぐ気持ちはありましたが、帰郷したのは、これまでの化粧品専門店としての店づくりを軸に、より多くのお客さまに喜んでいただける複合的な店づくりをしたいと考えたためです。
 化粧品専門店として商いをしてきた店の南側に隣接していた建物が取り壊され、跡地が2013年、今の大手門枡形広場になっていました。
 インテリア業界で勉強していたときでしたが、現場を見て「大名町のにぎわいづくりに貢献できる店を」という意識が、より強くなりました。
 化粧品以外でも、性別、年齢を問わず地元の人にこそ利用してもらいたいと考え、全面改装の際、ビルの一角にカフェをオープンさせました。
 メニュー、レシピ、内装デザイン、パッケージデザインなどを考え、立ち上げました。
 街を楽しんでもらいたいという思いから完全テイクアウトの店に。片手で手軽に食べ歩きができるチュロスをメインメニューにしました。
 コロナ下でカフェをオープンする際は、本当にどうなるか心配しました。しかし、チュロス片手に隣の広場で楽しんでいるお客さまの姿を見て、安堵し感謝の気持ちでいっぱいに。閉店間際に高校生が自転車で息を切らせながら駆けつけ、「間に合った」と笑顔を見せてくれた時は本当にうれしかったです。
 新規事業立ち上げのため、事業計画書もしっかりと練りました。その際、商工会議所主催の事業計画セミナーを利用させていただきました。
 コロナ下ではありますが、少しでも生活に喜びや楽しみを感じていただける店づくりに、励んでいきたいと思います。  

株式会社 田立屋
松本市大手3−3−4
☎0263-32 - 0057