[創商見聞] No.63 佐邉 大作 (ACORNS STOVE)

「創商見聞 クロスロード」の第63弾は、2021年4月、Iターンした大町市で、薪ストーブの販売・メンテナンス会社を創業した「ACORNS STOVE」の代表佐邉大作さんに話を聞いた。

やさしい炎とどんぐり

【さなべ・だいさく】38歳、大阪府堺市出身。大阪府立福泉高校卒業後、2005年から始めた、大町・白馬地方のスキー場での仕事が縁で大町市にIターン。21年4月創業。

ACORNS STOVE

大町市大町4284-4メゾン鹿島A号室info@acorns-stove.com ☎080・4023・7779

―大阪からゲレンデへ
 大阪で車輛整備士の仕事をしていた2005~06年の冬、友人に誘われ初めて長野県に来ました。小谷村の栂池高原スキー場で住み込みの仕事をしながら、スノーボードを楽しみました。
 いろんな地域からさまざまな人が集い、スノーボードを通じて仲間となり、一緒に仕事をすることは本当に楽しかったです。しかし首の骨を折ってシーズンが終わりました。
 仕事が残り1週間となった3月末、朝一番で滑った時、アイスバーンで転倒。首の骨を折りそのままドクターヘリで松本市内の病院へ運ばれ、診断は頸椎胸椎圧迫骨折。即入院でそのままベットの上で約1カ月。結局栂池に戻れないまま大阪の病院へ転院したため、最後は仲間にあいさつもできず去りました。
 本当に最高の1年であり、最悪の1年でした。
 突然の終わり方に納得できるわけはなく、翌シーズンからも大町・白馬地域に通いました。冬期間だけでしたが、感覚はもう「Iターン」でした。オフシーズンには大阪で仕事をしたのですが、スノーボードを通して大北地域「雪街」の魅力に、のめり込んでいく日々だったと思います。
 スキー場で知り合った友人に、何人かIターンした人たちがいます。その1人が11年、大町市に居酒屋をオープンさせ、私も通年で手伝うことになりました。大町に転居し、根付くきっかけとなりました。
―薪ストーブ
 しっかりIターンするなら、ここでしかできない仕事をしたいと考えていました。薪ストーブは、大阪時代やスキー場で働いていたころから、漠然と「いいなあ」と思っていました。
 15年、知人からストーブ販売会社を紹介してもらい、働き始めました。ストーブの基本構造からメンテナンス方法、顧客管理などを学び、とてもお世話になりました。
 でも、やっぱり、独立して自分で動く方が「性」に合っているようです。あまり年齢を重ねてからだと難しくなるし、「独立するなら今かな」と思い、妻にも相談し同意してもらえたので、創業の道を選びました。
―創業のコンセプト
 まず、大町商工会議所に相談に行きました。「需要はある?」「マーケットはかぶらない?」「ここで(大町)本当にいいの?」「お金の回収や経理は大丈夫?」と、いろいろ質問されました。
 営業のメインエリアと見込む白馬・小谷地域で一定の需要が見込めること、長野市、松本市へのアクセスも悪くない。大町の立地条件は、とても良いと判断している―と答え、コンセプトを詰めていきました。
 創業計画の書類を作成し、大町市の支援補助金を得て、創業へと進みました。
 現在、ストーブの設置は、工務店経由の依頼が多いです。平均的な価格は、本体が30万~50万円、煙突も30万~50万円。施工費を含め総額100万円前後です。
 クラシカルかモダンか、横型か奥行のある型か。外観に構造、サイズ、操作性、薪の燃やし方、価格など、検討する要素は多種多様です。お客さんの要望を伺うところから相談に応じています。 
―売りっぱなしにできない
 薪ストーブは日常的に管理が必要で、使用後のメンテナンスも欠かせません。お客さまとは、長いお付き合いになります。
 県内では1998年の長野五輪後から、はやり始めたと言われています。約20年たち、機能や施工方法、安全性の基準も向上していますが、手間がかかることは変わりません。 
 ストーブは優しい炎が観賞でき、ゆったりとした時間を楽しめます。でも、薪の仕入れ、乾燥や保管、薪割りの手間、灰やすすの掃除など手間もいろいろ。本当に好きじゃないと続かないということをお客さんに説明し、理解の上で導入してもらうようにしています。
 体力・気力が続かず、嫌になって、ファンヒーターに交換するお客さまは珍しくないです。


―シーズン前が一番忙しい
 寒くなる前の今が、一番に忙しいです。主に煙突のクリーニングやメンテナンスです。
 ストーブや煙突の状態を見れば、その人がどんな燃やし方をしているか分かります。きちんと薪が燃焼していればすすは少ないし、すすの質もさらっとしている。悪いとタール状になったり、きつい匂いも出ます。薪が針葉樹か広葉樹かでも差があります。
 火持ちをよくしたいから空気(酸素)を絞る、燃費をよくしたいから薪を太くする、秋ごろちょっとだけたきたいから熱を上げないなど、燃やし方は「各家庭流」になっていることも多いです。使い方のメリット、デメリットをきちんと説明し、最近増えている煙による近所からのクレームなどにつながらないよう、アドバイスもしています。
―今後のビジョン
 ショールームを持ちたいと考えています。実は、まだマイホームを持っていませんので、自宅とショールームを兼ねることも検討しています。
 できれば、薪ストーブを入れ替えて使いながら、実体験を重ねたい。この広さや天井の高さにはどんなストーブが合うかとか、お客さんに自分の体験などを話したいです。 
 ストーブ(本体など販売)、 薪(保管・薪割りの実演)、メンテナンス(清掃・安全性)という、ストーブ管理の3つの工程を体感できる場所を作ってみたいです。
―ドングリ
 「社名のエイコーンって何?」とよく聞かれます。ACORNは英語でドングリの意味です。
 実は、わざと英語にして「ドングリ」と答えることで、初めてのお客さんとも会話が始まりやすいような設定にしました。「どんぐりのストーブ屋さん」って、屋号も考えたのですがかわいらし過ぎて見送り、英語表記にした経緯もあります。
 また、僕の子どもに髪形がドングリに似ている子もいて、家族への思いも入っています。
 ドングリが成る樹種は薪にも使われます。薪ストーブには「心温まる家族的な暖かさ」のイメージがあると思います。
 薪ストーブであったまっている家庭。火を入れるのは冬だけかもしれませんが、メンテナンスや薪の用意など、季節を通じて家族で携わり「暖かな炎」を見てほしいです。