【小林千寿・碁縁旅人】#22 フランスの夕食

フランス囲碁協会会長宅で。会長(左から2人目)の右隣が筆者(2000年ごろ)

自宅に招く「おもてなし」

日本で「おもてなしの食事」はレストラン派が多いですが、欧米では自宅に招かれることが大半でした。
特にフランスでは、豪邸でのシェフのフルコースから、足の踏み場がないほどの小さなアパートに碁仲間をたくさん呼んでワイワイ飲んでおしゃべりする気楽なものまで数多く、外食をする機会がないほどでした。
そこでフランスの多くの習慣を学びました。まずは集まる時間は遅めで7時半ごろから。最初の1時間ほどはアペリティフ(食前酒)とナッツなどで歓談。食事が始まるのは9時ごろから。
フランスの家庭料理を知る良い機会でした。例えば前菜の帆立貝のソテーとサラダに白ワイン、メインの肉料理と赤ワイン、そして各種のチーズ。続いてお手製のデザート「ピーチメルバ(桃のコンポートにアイスクリーム添え)」に甘めのお酒。その後はコーヒー、紅茶にチョコレートなど。食事が終わって、では、そろそろ帰りましょうと席を立つのは真夜中すぎになることも。
ご自宅に呼ばれた時の手土産は生チョコレート、ワインが定番です。
それとお花を贈るならば前日に届ける。それは招待する側が前日に受け取れば花が重複しないし、当日に持ってこられたらホスト役に一手間取らせてしまうので、それに対する配慮です。フランスでは、そのくらい、お花を飾ることが大切です。
会話は当然、フランス語が主なのですが、私がついていけない内容になると、英語に切り替えてくれます。碁を打つフランス人はたいがい英語を話せます。なんと言っても世界の囲碁界の共通語は英語ですから。
食事中の会話は幅広く、政治、グルメ、文化など、何が飛び出してくるか分かりません。そこで大切なのは、碁の先生だからと会話に頷(うなず)いているだけではダメで、自分の意見にウイットを入れながら話せれば一人前。今、思い返すと楽しい晩餐(ばんさん)会の一番のご馳(ち)走(そう)は「会話」だったと気づかされます。(日本棋院・棋士六段、松本市出身)