桜花と雪形が共演する安曇野の春(安曇野市)

そよ風に揺れる満開のヒガンザクラと常念岳に現れた「常念坊」の雪形が、安曇野の心象風景を際立てる=ニコンD5、ニコンED ニッコール300ミリ、4月12日午前10時35分

原風景の絶景残した先生しのぶ

安曇野に訪れる春は全国的にも類がないほどドラマチックだ。木曽川や天竜川に沿って北上してくる春と、信濃川から千曲川、犀川へと遡(さかのぼ)り南下する春が安曇野で出合う。梅、アンズ、桜、桃、梨、リンゴ…。次々と咲く花便りに、北アルプスの雪形が目覚め、安曇野の春景色は多彩だ。
4月12日早朝、安曇野市堀金烏川の「常念道祖神」を訪れた。大小2基が並ぶ双体道祖神の脇に植えられた2本のヒガンザクラが満開だ。背景の残雪の常念岳(2857メートル)には例年より早く山名由来の黒型(ネガ型)の「常念坊」の雪形が現れ始めている。
「常念道祖神」は1991年、近くに住んだ写真家で映像作家の中沢喜直さん(1922~2015年)が地元の同意を得て建立した。
中沢先生の冥福を祈り、記者との写真交流を思い出しながらカメラを構えた。道祖神、常念岳、ヒガンザクラ。以前は周辺にレンゲソウが咲き、水鏡の田んぼもあった。
ナイーブな安曇野の原風景の絶景を後世の人々に残してくれた先生の温かさと優しさに感謝し、目頭が熱くなった。
昔と同じ「常念坊」の雪形。花の命の短さに人の命の儚(はかな)さが重なり、常念道祖神の桜花がにじんで見えた。
(丸山祥司)