[創商見聞] No.73 白鳥 恵美 アブドゥル(RISHTA)

「創商見聞 クロスロード」の第73弾は、塩尻市大門でインド料理専門店「RISHTA」(リスタ)を経営する代表の白鳥恵美さんから主に話を聞きながら、インド出身のチーフシェフ、セック・アブドゥルさんにも話を聞いた。

インド料理と絆

【しろとり・めぐみ】42歳、辰野町出身、昭和女子大学英米文学部卒。
【SHAIKH・ABDUL】43歳、インド・コルカタ(旧カルカッタ)出身。

RISHTA

塩尻市大門64-8 ☎0263-50-6615

―英語を通じて
 大学で英米文学を専攻し、在学中にアメリカへ留学するなど、英語圏の文化に触れることが大好きでした。 
 その後英会話講師として就職し、南アジア系の方と国際結婚しました。
 彼から「インド料理店を経営したい」という話を持ちかけられ、千葉県で開業しました。私もランチタイムなどで店を手伝いました。その時のスタッフの一人がアブドゥルです。
 元々インド料理の知識は無く、関心もなかったのですが、徐々に興味は高まっていきました。英語が得意なこともありましたが、他の国の文化に触れ合うことが大好きです。
 スタッフのビザの手続きや経理処理など、徐々に店の「手伝い」は「仕事」になっていきました。コックたちとコミュニケーションをとるうちに、いつの間にかベンガル語もしゃべれるようになりました。2014年に離婚し、帰郷しました。
―自分の血と骨になったもの
 千葉時代にさまざまな思いはありますが、店の経営は楽しかったです。インド文化圏には先進国にはない奥深い魅力を感じます。 
 「インド料理店の経営力」を学んだあの時の経験が、今の自分の血と骨になっていることは確かです。
 自分の育った町で異文化の違いを楽しめたら―。また店をやりたいという思いが募り、アブドゥルに連絡をとって16年、JR塩尻駅西口に店をオープンさせました。
―前途多難でも味に自信を持ち
 店は家族の助けと2人の共同出資でスタートしましたが、前途多難でした。そもそもこのエリアでは「インド料理」自体に、あまり認知度が無い。どう発信したらいいか分からず、店を知ってもらうことに、とても苦労しました。
 それでも、不安はありませんでした。アブドゥルの作る料理に自信がありました。料理の引き出しも多く、1000種類以上を提供できます。一度食べれば気に入ってもらえる。今もリピーター率はとても高いです。
―シェフ不在の危機
 3年かけて、ゆっくりですが黒字化できたころにコロナ禍に襲われ、売り上げは大幅に減りました。
 さらに、一時帰国していたアブドゥルが、インドでのコロナ大流行による全土封鎖に巻き込まれ、戻ってこられなくなってしまいます。彼が不在だった20年3月から10月にかけて、休業せざるを得なくなりました。
 持続化給付金、雇用調整助成金、家賃支援給付金など、各種の公的補助を塩尻商工会議所などに何回も相談し、申請しました。
 インドから出国できないうちに、彼の日本でのビザの期限も迫ります。うまく更新できるか本当に気が気ではなかったです。ようやく20年10月に来日でき、ビザ更新もぎりぎりで間に合いました。
 アブドゥルが戻ったことを多くのお客さまが喜んでくれました。小さな子どもが花束をくれたこと、「もうインドに行かないで」と地元の大学教授がすぐに駆け付けてくれたことなど、店が地域に受け入れられたと強く感じています。引き続き厳しい経営ですが、回復傾向に向かってます。
―デジトレ診断
 確定申告の相談で塩尻商工会議所にお世話になっている中、「デジトレ診断」を勧められました。日本商工会議所及び塩尻商工会議所の紹介で、地元企業が東京や大阪の企業からデジタル技術を使った経営診断、アドバイスを受ける事業です。
 店は特にIT化を目指していたわけではありません。どちらかというと自分の思いを聞いてくれる、相談役を探していた面が強かったかもしれません。
 日本商工会議所経由で、リスタに興味を持った副業人材13名と面談をして、「経営戦略」分野で2名、「SNS戦略」分野で1名と契約しました。
 現在、週1回合同WEB会議を行い、経営戦略のアイデアを具体化する相談を重ねています。現場を直接見てもらえない難しさはありますが、深い話し合いができています。
―料理を通じ深める絆
 長野県にはネパール系のカレー店が多いので、もっとインド料理を広めたいと思います。
 同じインド国内でも、北インドと南インドでは料理も違います。リスタではナンとカレーはもちろん提供していますが、日本では数少ない南インド料理も食べられます。まずは代表的な食べ物である「ドーサ」=写真=のおいしさをもっと知ってもらいたい。
 店名のRISHTAはヒンディー語で「絆」の意味です。店のロゴマークも握手をモチーフにしています。店を通じて、お客さまとのリスタ、スタッフ同士のリスタ、自分とアブドゥルとのリスタなど、さまざまなリスタを作り、深め、広めたいです。

 शेख अब्दुल セック・アブドゥルさん

子どもの頃から料理大好き
 日本に来て14年です。子どもの頃から料理を作るのが大好き。14歳の時、南インドに行き、5つ星ホテルで修業を始めました。見習い、アシスタント、コック、シェフ、総料理長と、インドの料理人制度は非常に細分化されています。ステップアップもなかなか難しい。最初の3年はスパイスの勉強で、その後、フライパンを握らせてもらうのに5年かかります。
 京都のレストランを経営していた親戚に声をかけられ、ジャパンライフがスタートしました。日本の全てが衝撃でした。政治の不安もなく、衛生基準の高さ、日本人のまじめさからくる優しい国民性など全てに―。
その後、千葉のお店で白鳥さんに出会いました。お店は残念ながらなくなっちゃったけれど、再度誘ってもらった時は、とてもうれしかった。また、ビジネスとして経営陣に迎え入れてくれたことも誇らしかったです。

「リスタ」のブランディング
 ナンとは違う「ドーサ」をもっと多くの人に食べてほしいです。小麦を使わず、ウラド豆と米粉を発酵させた生地を、クレープのように薄く伸ばして焼く食べ物で、とても身体にいい。
 日本のお米でRISHTA版のドーサを完成させました。日本のお米は甘く粘り気がある。クリスピーなインドの米とは異なったけれど、研究しました。
 恵美さんの実家が栽培した辰野町小野産米のドーサを提供しています。はぜ掛け米のドーサを、ぜひ一度楽しんでください。