[創商見聞] No.55 山本寛昭 (燈り屋)

「八方よし」目指して

―鶏なら飼えそう?
 大手ファストフード店で10年ほど働いた後、独立して弁当屋を5年経営してました。残念ながら店を閉じ、再度同社に戻りましたが再び独立して、今度は養鶏業に乗り出しました。2014年のことです。
 40歳の時、たまたま読んだ本で自然卵養鶏を知り、「牛とか豚に比べて、鶏なら簡単に飼えそう」と思ってしまいました。
それまでの経験で仕事の怖さは知っていたし、正直、弁当屋を畳んだダメージも残っていました。 
 それでも、鶏を飼う自分の姿を想像したら、わくわくしました。もう一度、自分で主体的にやってみたいと感じました。
 14年3月、場所や施設が確保できた箕輪町で、養鶏場とそこで育てた鶏肉を使う「親子丼専門店やまもと」を立ち上げました。
 経営はやはり厳しかったです。それでも2年続け、「おいしい」と評価してくれたお客さんが常連になり、少しずつ自信を取り戻していきました。
―塩尻商工会議所へ
 以前の飲食店で働いていたころから、現在店を構える塩尻市の場所には可能性を感じていました。県内の幹線道路である国道19号と20号、153号が接続する交差点付近です。
 「あの場所に店を開きたい」と、塩尻商工会議所へ相談に行きました。特定の場所を指定しての開業相談は珍しかったようです。
 塩尻商工会議所は「大型交差点近くで、かえってお客さんは入りにくいのでは」との反応でしたが、事業計画書を作成し金融機関とも相談しました。
 残念ながら一度店を畳んだ過去の経過もあり融資審査には通りませんでした。
 しかし、その時の金融機関が「当行では融資できないけれど…」と、日本政策金融公庫につないでくれました。なんとか再チャレンジできる融資制度を利用でき、16年3月、「鳥料理やまもと」をオープンさせました。
 最初の1年くらいは、可もなく不可もない売り上げでした。
 日々お客さんの様子を見ていると、鶏肉を食べられない仲間がいると、うちではなく、別の店を選ぶことがわかってきました。
 さらに鶏肉を食べられない人が一定数いることも判明。対応策として海鮮料理なども提供するようにしていきました。
 現在は、ネットで手配する漁港からの直送便なども利用しています。
―リニューアル
 店の認知度は徐々に上がってきましたが、「もっとお客さんを引き付ける外観に変えたい」という思いが強くなり、今度は店舗改装に関して塩尻商工会議所に相談。その結果、マル経融資(小規模事業者経営改善資金)を受けることができました。
 これは、商工会議所の経営指導を受け、会頭推薦を受けたことを条件に、日本政策金融公庫から融資を受けられる制度です。力を借りられてうれしかったです。
 依頼したデザイナーの力も大きかった。店名を「街道の『燈』旬酒場やまもと」に変え、ロゴも一新。シンボルとなるちょうちんや電球の質感までこだわった店を作った結果、客数は順調に増加。2店舗目の松本店開店へと発展できました。
―やっぱり鶏
 今後は、改めて「鶏一途」をアピールしたいと考えています。
 2店舗で使うため、現在、塩尻市片丘で鶏1500羽を飼育しています。この肉を「信州黒地どり」として商標登録の準備を進め、ブランド化を目指しています。両店に食肉処理室を設置し、保健所の販売業の許可も受けたため、他社へ出荷することもできるようになりました。
―未来
 寅年の男、諏訪の男なので2022年の御柱を勝負の年と考え、種をまき、準備を進めている感覚です。
 実は松本に出店するか、東京に出店するか迷っていました。
 輸送手段、商品管理、開業時期などさまざまな要素を検討し松本に出店したのですが、今後のフランチャイズ展開を考えると、東京進出もまた必然です。
 県が推奨する地場産業の「6次産業化」のつながりから、ビジネスパートナーになっていただけそうな企業に、「弊社はこんなふうに頑張っています」という手紙を出し、アプローチしている段階です。
―コロナ禍を乗り越えて
 苦しい環境でも、考えることのコストはただ、アイデアは出せます。コロナ禍が始まった当初、鶏肉の加工商品は頭に無かったのですが、最近では鍋、コンフィ、親子丼など自宅で食べられる商品を相次いで発売。スーパーや飲食店へも提供できる可能性を感じます。
 自粛期間の昨年5月には1カ月近く店を閉め、何も進まず、切ない時もありましたが、気持ちを強く持ち、社員、パートさんたちとともに今の苦難を乗り越えたいです。
―八方よし
 近江商人の経営哲学を表す言葉に「三方よし(売り手によし、買い手によし、世間によし)」があります。私の「八方よし」はこれを発展させた考えです。お客さま、従業員、金融機関、取引先、地域社会、地球環境、自分、未来―の八方にとって「よし」という商売をしたいです。
 目標を全部クリアするのは難しい。でも考え方を変え、自分だけもうけようとしないこと、もうけは独り占めせず社会に還元する、という大きな流れの中でやっていけば、目標に近づけることを信じています。
 (お弁当屋が)駄目になってもしぶとくやれたことは、ある意味ラッキーだったと思っています。
融資先、商工会議所などが親身になって相談に乗ってくれたことに深く感謝しています。
 多くのお客さまと接して、「八方よし」に進んでいきたいです。

【やまもと・ひろあき】 46歳、下諏訪町出身。岡谷南高校卒業。大手ファストフード店などに勤務後、2016年3月に開業

燈り屋
塩尻市広丘高出1566‐1
☎0263・53・3588