[創商見聞] No.86 「アオキメディカルブレイス」 (青木 太河)

 「創商見聞 クロスロード」の第86弾は、オーダーメードで義手・義足・補装具を製作する松本市のアオキメディカルブレイス代表・青木太河さんに、創業までの道のり、経営上の工夫などを聞いた。

母の着想とかわいらしさ

【あおき・たいが】29歳、松本市出身。新潟医療福祉大技師装具自立支援学科卒。2016年に義肢装具士、福祉用具プランナー資格取得。21年4月創業。

アオキメディカルブレイス

松本市筑摩1-6-25 ☎0263-88-3044

―美術からの始まり
 子どもの頃から「ものづくり」にとても興味があり、松本第一高校では美術を学びました。基礎デッサンから始めて美術全般に取り組む中で、3年時には陶芸や金属工芸を専攻しました。進路は一般大学に行くか、美術関係に行くか、卒業間際まで悩みました。
美術で食べていくのは難しいかもと考えていた中で、なんとなく知っていた「義肢装具士」の資格が取得できる大学を見つけました。医療系で技術職、ものづくりに関われること、そして人の役に立てること―。
 詳しく調べ、両親や担任の先生に相談していくうちに、とても魅力を感じ、進学を決意しました。
 大学では、専門的な勉強に加えて臨床の現場研修に熱中。改めてわくわくして、ものづくりへの活力が上がってきたというか、モチベーションが高くみなぎってきました。国家資格の取得は大変でしたが、大学4年の3月に無事取得し、県内の義肢製作所に勤めました。
―かわいらしさの工夫
 5年ほど勤めましたが、実際に義足や歩行装具を作った事例は極めて少数で、大半はコルセットなど、けがに対応する装具を整える仕事でした。とても少ない事例の中でしたが、小児用の歩行装具を作る仕事がありました。使用する人の状態や体形は十人十色で教科書通りにはいかず、金具のフィット感はもちろん、装具と身体が実際に接する部分や角度調整は、すごくデリケートでした。
 その時も使う子どもと何回も会って時間を共有し、成長を見守りながら製作しました。その際、装具の見た目を「かわいく」作ってあげたいと感じました。
 新しい装具は「痛い」「合わない」など、嫌がられることも多いです。でも見た目を少しでもかわいらしくすれば、使う人も受け入れやすくなるのではないかと工夫しました。子どもにも保護者にも喜ばれ、大変感謝されました。
 深く考えて作り出したこの仕事で「心の中の熱量」が上がっていたことが分かりました。さらに特化して仕事をしたいという思いが募り、創業を考えました。
―母と創業スクール
 両親に相談したところ、とても喜んで応援してくれました。特に母が熱心にいろいろやってくれました。
 母は僕より先に松本商工会議所の創業スクールを受けて、「太河、これ良かったからあなたも受けてみたら」と勧めてくれました。実際に受講し、申請手続きや資金調達方法から、創業後のPR方法まで、とても参考になり、創業準備を進めることができました。祖父も「ぜひやってみろ」と応援してくれ、所有する畑に、今の工房を建てさせてくれました。
―門前払いの日々
 2021年3月創業しましたが、とても厳しいスタートアップでした。見通しが甘かったというか、「勢い」で進め過ぎたようで、営業の電話を病院にしても相手にされない。何とか商談できても「新規に意味がない。取引業者は決まっています」と、5分で終了。創業後の半年は多くの固定費も払えないくらい厳しく、本当にどうするべきか、ずっと悩んでいました。 
 仕事が無く、時間はあったのでホームページやSNSなどには力を入れました。創業スクールの講師や同期からも、SNSを使った情報発信の大切さは聞いていたので、何とか工夫して「刺さる発信」をできないかと、毎日考えていました。  
 そんな時、また母がアイデアを出してくれました。子どもの頃の歯ブラシのコップ入れや運動着の巾着袋に名前を入れていたように、装具のベルトにかわいく名前の刺繍ワッペンをすれば、無機質な装具がマイグッズのような感覚になる―。
 自分のアイデアで、名前のワッペンに加えて、無地が一般的だった足首を固定するプラスチック部分も、プリント加工してかわいくする工夫もしました。
 この工夫をSNSなどに載せたところ、保護者の検索に引っかかったようで、実際に使う人たちに直接PRできました。「SNS見たんですけど、使わせてもらえませんか」と結果的にエンドユーザーが病院側に相談するような形で、創業後、半年以上経過してようやく仕事が進み始めました。保護者のコミュニティーにも広まり、好評で今では看板商品です。


―おもいやり着物
開業して2年になります。本業以外で取り組んだのが「おもいやり着物」というボランティア活動です。これも母のアイデアですが、重度の障害がある方々にベッドの上や座った状態で着物を着てもらう活動です。理髪店のケープのような感覚で簡単に羽織れる仕組みです。
 最初は病室での着付けに病院側の許可が出ない場合もありました。それでも保護者の方々は、七五三や成人式には、振り袖やはかまで着飾って写真に残したいという思いがあります。要望も高まって徐々に受け入れられ、今では養護学校のイベントなどでも行えるようになりました。活動は非常に好評で、北海道から問い合わせをもらうほど。その着物と一連の活動が評価され、2022年度のグッドデザイン賞を受賞しました。母は活動的で「車いす着付け士」の資格も取得しました。
―地道に少しずつ
 創業からの2年で、義足に関する仕事は、作り替えや、微調整など含めても10件ありません。義足関連の仕事だけで生計を立てることはとても難しい。現在の仕事は、背骨の圧迫骨折に対応するコルセットなど、装具販売が中心です。
 しかし、少ないけれど、これからも小児向けの用具や義足を作っていきたい。ボランティアを含め2年間仕事を続けてきた今の思いです。地道に少しずつでも、義足関連の仕事の規模を大きくしていきたいです。
  (聞き書き・田中信太郎)