[創商見聞] No.78高橋 佑希 (便利屋 おかじ)

 「創商見聞 クロスロード」は、移住した大町市で、2020年4月に情報通信業の「便利屋おかじ」を創業した高橋佑希さんに話を聞いた。地域のパソコン環境の向上を目的に便利屋を立ち上げ、そこから新しいエリアの魅力発信に取り組み始めた事業への思いとは―。

便利で新しい大町の見せ方

【たかはし・ゆうき】36歳、愛知県岡崎市出身、中部大学工学部卒。2017年大町市移住。20年4月便利屋おかじ創業、代表就任。

便利屋 おかじ

大町市大町5700-36 ☎0261-74-0091

―遊技機の製造から
 愛知県岡崎市で生まれ、静岡県御殿場市の高校へ進み、大学はまた愛知県内に戻りました。大学1年の時に妻と知り合い、一緒に学生生活を過ごし、社会人になって結婚しました。大町市は妻の出身地だったので、Iターンし移住しました。
 大学卒業後は、名古屋にあるパチンコアミューズメントの製造会社に入社し、約8年間、遊技機の生産に携わりました。筐体、いわゆるパチンコの機器類を収める本体の設計生産の仕事です。メーカーから依頼を受け、使用権のある映画やアニメシリーズなどのキャラクターをベースに、外観デザインから始めます。作動基盤を組み上げ、盤面の装飾、液晶画像や歯車を取り付け、試作品を製作します。基本動作の試験チェック、組み立てラインの指示書も作成。工場の生産ラインを稼働させ、納品管理―という一連の仕事をしていました。 
 最初は面白かったです。でも、お客さんの生の声が聞こえないというか、いつもメーカー相手で、今までにない工夫を求められても、量産を検討するとできないことも多く、気疲れを感じながらの仕事でした。また、日ごとに業界全体の規制が厳しくなり、将来性への不安を感じ始めました。
 つらくて辞めようというわけではなく、特段独立へのビジョンもありませんでしたが、ぼんやり「会社を変えるか、自分で創業するか」を考え始めました。
―妻の故郷大町へ
 実は婿養子で、結婚当初から「将来は妻の実家へ」という話もあり、いつかは大町に行くと思っていました。でも、仕事にのめり込んで8年も経過してしまいました。もっと早く移住できたかもしれません。
 年々厳しくなるパチンコ業界の環境や家庭の事情から、2017年に大町に移住しました。
―移住して
 大町には何度も来ていましたが、暮らしてみて、改めてよかったと感じています。静かで何もないような印象もありましたが、買い物の不便はないし、仕事関係で必要な品も、ある程度は通販で賄えます。
 おいしいお店や観光スポットはたくさんある。外部に向かって上手に情報を発信すれば、もっと大町が注目される可能性も強く感じています。
―パソコンの便利屋
 移住して最初はウェブ制作会社にお世話になりました。ある程度前職で身に付けた技術が応用できたので、ステップアップにつながりました。
 何件か個人的に仕事を頼まれる中、アパレル関係のウェブ制作の依頼があり、ホームページのカスタマイズから、直接販売や通販サイトの管理などまで担当しました。これをきっかけに、ホームページのデザインリニューアルやシステム管理など、毎月定額で業務を担当するサブスクリプションの仕事が増えていきました。
 さらに、パソコン本体の購入からWi-Fi環境の整備、導入する会計ソフトのことまで相談内容が広がりました。
 そんな状況から「便利屋」のような感覚で、ウェブ関係からシステム設計まで、対応範囲の広さを特色に、素早くレスポンスする事業を創業したいという思いが募りました。
 大町商工会議所に創業を相談し、小規模補助金の対象にも採択されました。
 旧姓が岡嶋で結婚前は友人や先輩たちから「おかじ、おかじ」と呼ばれていました。ニックネームにちなんで、「便利屋おかじ」を20年4月に創業しました。
―二つの便利目指して 
 これからの会社は、二つの〝便利〟に力を注ぎたいと考えています。
 一つ目は「パソコンの便利屋」。創業当初、クライアントから高校生のPC家庭教師を依頼された時に気づいたのですが、実はパソコンが使えない高校生は結構います。スマホは使えても基本ソフトのワードやエクセルは使えず、「サポートしてもらえないか」という相談を受けます。
 また同時に、高齢の方々に、「ネット環境でのパソコン基礎知識をサポートする」ことへの需要も感じます。高校生とは逆にワードやエクセルは使えても、例えばクラウドシステムの理解が難しく、保存環境の変化に対応できていない印象があります。使い方をサポートしても、データをクラウドへ保存することを忘れてしまうケースも多いです。
 初心者向けの体操教室のようなイメージで、高齢者に対するパソコンの基礎をサポートする便利屋が求められていると思います。
―エリアのサイト集めて
 もう一つの〝便利〟は、北アルプスエリアの集合サイトの構築です。
 北アルプスエリアには、かわいくておいしいお店がたくさんあります。店ごとにHPはあっても、メニュー表が簡易的すぎたり、どこが駐車場か分からなかったり。現在、店舗やサービスの必要十分な情報を掲載する総合サイト「どこずら」を作成しています。
 当然、先行する大手総合サイトとの差別化が必要です。力を入れたいのが「実際の使いやすさ」。既存サイト以上に駐車場・外観・内観・料理写真・メニュー表など、見やすさ・使いやすさを表現したいです。例えば「市営無料駐車場から簡単に行けるお薦めのお店一覧」など、地元ならではの、実際に使いやすい工夫もしていきたいです。
 集合サイトに掲載する店舗には「無料プラン」と「有料プラン」を用意し、自前でサイトを持っていない店も参加しやすいよう誘導します。
 行政の情報や地域クーポン情報掲載などの計画もあります。北アルプスエリアを代表する「集合便利サイト」を目指してやっていきたいです。
 まだまだ事業として大きな売り上げにはつながっていません。それでも、現時点では積極的な集客活動をやっていない中、緩やかではありますが、売り上げは増えています。
 今後二つの〝便利〟を工夫して、事業化を進めていきたいと考えています。

準備中の総合サイト「どこずら」のサンプル画面