赤いユキツバキとブナ林の熱い記憶(飯山市・鍋倉山)

ブナ林の雪解け水を集めて流れる渓流に、ユキツバキが彩りと風情を添える=ニコンD5、ニコンEDAFVRニッコール80~400ミリ、20日午後2時41分

自然への思いつなぐ林に映える赤

新潟県と境を接する飯山市の鍋倉山(1289メートル)。残雪の中で芽吹くブナ原生林の爽やかな緑と、飯山市花の赤いユキツバキ。鮮烈な補色の対比の光彩に出合いたくて、20日に訪れた。
この春は例年より半月以上季節の進みが早く、ユキツバキの花が鮮やかだ。雪解け水を集めた沢の音に、「渓流とユキツバキ」の構図が脳裏に浮かんだ。
熊と遭遇しないよう鈴と携帯ラジオを鳴らし沢筋の撮影ポイントを探した。約2時間半のやぶこぎで疲れ果て、断念しかけたその時、眼下に赤いユキツバキの花を見つけた。撮影位置から花まで約7メートル、花と沢までさらに距離がある。望遠レンズの引き寄せ効果を生かして撮影した。
帰路、ブナの大木に耳を付けると、ブナの鼓動に通り過ぎた時の流れがオーバーラップしてきた。1986(昭和61)年、鍋倉山国有林のブナ伐採計画が飯山営林署から出され、大規模なリゾート計画も持ち上がった。伐採か保護か激しい論争が…。全国で初めて市民の自然保護運動が勝利。そのシンボル樹となった「森太郎」や「森姫」。「こぶブナ」「謙信ブナ」もあった。
スター的存在の巨木は倒れたが、美しいブナ林は今も大切に保護されている。当時、取材で何十回も通った「巨木の谷」と「西の沢」…。思い出すと熱く込み上げてくるものがあり、見上げる大木がにじんで見えた。
(丸山祥司)