大町の小さな商店 みんなの居場所に

大町市大町の髙見伴恵さん(72)が、自宅前の空き家を活用して開いた小さな商店「タカミ小屋店」は開店して3年目。退職後、社会とのつながりが途切れて孤独感や無力感を感じ、「老後の自分の居場所にしよう」と開いた店には、近所のお年寄りら、日々いろんな顔が集ってはおしゃべりをし、心の栄養を得ている。図らずして「みんなの居場所」になりつつある店をのぞいた。

退職後の孤独感つながり求めて

店では髙見さんが育てたタマネギとジャガイモ(季節のみ取り扱い)のほか、カツオのたたきや塩サバといった冷凍の海産物を主に扱う。建物はかつて家族が暮らした家。夫が屋根を付けてくれた駐車場の一部に置いた机と椅子で、買い物客や散歩途中のご近所さんなどが、ひととき腰を下ろして休んでいく。夏場はアイスクリームも販売し、近所の子どもが買いに来たり、お年寄りが涼を取ったりもする。
7年ほど前のこと。東京で焼き鳥店を営む次男から、店で使うタマネギとジャガイモを作ってほしいと頼まれた。仕事の合間に育てたそれらの野菜が「おいしくて評判がいい」と喜ばれた。小さいものなどは近所や知人に分けると、こちらも喜ばれて「売ってほしい」との声が。作る楽しさ、役に立つ喜び、生きる力を実感し、毎年育てるようになった。
外に出て人と接する仕事を長年続けた髙見さんだが、家族の介護などを機に2年前の春に退職すると、「社会とのつながりがぷつりと切れた気がした。新聞や郵便配達の来る音が楽しみになった」。
故郷・高知県では母が長年雑貨店を営み常に人と交わる環境で育った髙見さん。人が大好きなため、退職後は孤独を感じるようになった。そんな時に野菜を売る場を設け、人や社会とつながる自分の居場所をつくろう|と思い立ち、2021年7月に店を開いた。
建物内の8畳ほどの部屋では、閉店した母の店の在庫だった雑貨や衣類などを格安で扱うほか、知人が古い着物地をリメークした服やバッグなどを並べる。魚類は、母の店と取り引きした業者から味が確かな品を仕入れ、「母の思いも受け継いだ」。

気軽に立ち寄りリフレッシュし

店は、買い物の足がない人に重宝がられる。頻繁に通う胡桃澤千恵子さん(82)は、「助かるだいね。ここでアイスを食べて話をして、楽しいよ」。自然に人が集う場ともなり、永井初枝さん(75)は「気楽に近所の家に上がり込む時代ではなくなったから、こういう場所はありがたい」と話す。
「生きていれば誰もが言えない思いや悩みを抱え、気持ちが晴れないこともある。私もそう」と髙見さん。会話の機会が減った高齢者らが気軽に立ち寄り顔を見て、心の荷物を少しでも下ろし、安眠や明日からの元気につなげてほしい|。自らの居場所として始めた店を続けるうちに、そう思うようになった。
晩ご飯の献立や夏祭りの話題といったたわいない話で笑い、リフレッシュして帰路に就く買い物客を笑顔で見送る髙見さん。「身の丈に合った営業スタイル。多くの人に助けられ、知らないうちに皆さんから元気をもらっている」。触れ合いが生まれる居場所を得て、生き生きとした表情が輝く。
営業は5~11月の午後1~5時。雨天時などは休業。