【記者兼農家のUターンto農】#127 農作業事故

脚立から転落「まさか自分が」

立冬の朝、軒先に実る柿を取っていた。脚立を上り、頭上の実へ手を伸ばしたとき、足元が動いた。「うわっ」。すぐ、脚立ごと倒れるのを覚悟した。
高さ2メートルほど。関節をうまく使って着地すれば衝撃は和らげられると思った。子どもの頃に屋根の上から飛び降りたときの要領だ。
だが、着地の瞬間、左足に激痛が走った。アスファルトをまともに突いたみたい。もう動けない。
病院でかかとの骨折と診断された。針金でつなぐ手術を受けた。
「柿の実が高くつきました」。事故の状況を伝えてぼやくと、医者は「この時季、よくありますよ」と即答した。柿の実を取るさなかにバランスを崩して転落、病院に運ばれてくる人が、例年、後を絶たないという。
松本広域消防局に聞くと、正確なデータはないが、やはり今時分に柿関連の救急搬送は多いという。死亡する例もある。足の骨折で済んだのは、いい方なのかもしれない。
病院でも消防でも教えられたのは、柿の枝は見た目より折れやすいということ。丈夫さを見誤って、樹上から転落してしまう。
ただ、私は脚立から落ちた。それも珍しくないと知ったのは、県農村振興課の話だ。
実は、柿の収穫中の負傷は「農作業事故」に数えられる。同課が真っ先に挙げた具体例が脚立からの転落だった。今季も、そんな重傷例が私以前に県内であったという。
木からであれ脚立からであれ、転落者には高齢男性が多いという。50歳の自分を高齢と言いたくはないが、今回を振り返ると心もとない。柔らかな着地を試みたはずが、体は思ったように反応しなかった。そもそも、脚立は適切に置かれていたのか。取ろうとした実との位置関係には判断の甘さがあった。
「まさか自分が」と思っていたことに不意に遭う。Uターン3年目、初めて農作業事故の当事者になってしまった。けがを治し、緊張感を改め、備えよう。

「Uターンto農」はしばらく休みます。