【記者兼農家のUターンto農】#131 牛ふん堆肥

昔より臭わないわけ

3年前の連載の初回で、牛ふん堆肥をまく筆者の写真を載せた。堆肥を扱うのはずいぶん久しぶりで、「イメージより全然臭わないな」と思っていた。
わけを知るには、この堆肥の元をたどればいい。幸い、近所だった。今月、機会を得て訪れた。
桜井畜産牧場(松本市寿小赤)は、塩尻との市境にまたがる牛舎で1500頭前後の肉牛を飼う。牛たちが出すものが堆肥になる。
ただ積んでおくのではない。大型機械で天地返ししたり、細かく砕いたりする。通気をよくして微生物の働きを促すためだ。
そうすることで、ふんや稲わらなどの混合物の発酵が進む。熱で病原菌が死滅し、有害物質が分解され、悪臭は消えていく。
堆肥舎を見せてもらった。牛舎から出したての区域のものは、ごろっとして茶色く、臭いがきつい。ある区域では、湯気が上がり、まさに発酵中の気配が漂っていた。さらに日を経ると、粒が細かくなり、色は黒く、臭いは和らいでいく。
つまり、土に近づく。田畑になじみ、作物に受け入れられやすくなる。発酵は、食文化の始まりでも一役買っている。
桜井畜産では、半年から1年かけて「完熟堆肥」を作る。経費を考えると、「割に合わない」と桜井正明社長(87)は明かした。
それでも手間をかけるのは、畜産農家にふん尿の保管・処理施設の整備を義務づける法律のためだ。出るものを始末できないと牛は飼えない。そして、堆肥を引き取ってもらうには、「どうしてもいいものを作らないといけない」という。
くだんの法律の施行は2004年で、私が実家を離れている間だった。道理で、イメージより堆肥が臭わなくなっていたわけだ。
一方で、桜井社長は「わら入り堆肥を入れないと土が固くなる」と作り手の自負ものぞかせた。父も「苗の生育が違う」と言う。
畜舎と田畑、思っていたよりずっと持ちつ持たれつだ。
春、今年も堆肥の力をもらう。