【記者兼農家のUターンto農】#111 中干し

温暖化対策で注目

田んぼを乾かすことが、地球温暖化を和らげることにつながる─。そんな理屈が注目を集めつつある。
6~7月、稲が植わっているのに水のない田んぼを見かけることがある。「中干し」をしているのだ。
1週間から10日ほど水を完全に抜く。目的は、新しい茎が生える「分(ぶん)けつ」を止めて過剰な成長を抑えたり、土中に酸素を入れて根張りを強くしたりすることだ。
ただ、温暖化対策になるのは別の効果だ。土中でメタンを作る細菌は酸素に触れると活動が鈍る。農水省によると、中干しを1週間延ばすとメタン発生量が3割減るという。
この量をどうみるか。日本で排出される温室効果ガスのうち農林水産業で出るのは4%で、稲作由来はその4分の1ほど。その3割だと、さほどでもないのかも。だが、メタンの温室効果は二酸化炭素の25倍と知ると、ささいな工夫でも大きく思える。
中干し延長が、ビジネスをてこに広がるかもしれない。温室効果ガスの排出枠を取引する国の制度「J─クレジット」を使ったプロジェクトに、三菱商事やクボタなどが乗り出すという。個々の農家から排出削減量を取りまとめてクレジットにし、企業に売る。
農家にとっては新たな収入源になり、温暖化防止にも貢献できる。いいことずくめだが、問題もある。
中干しし過ぎると収量が減る、という調査がある。田んぼにひびが深く入って稲の根が切れるといった理由からだ。収入面でも痛いが、わざと「不作」にするとなると農家心理にもよろしくない。
もともと中干ししない農法もある。施肥のタイミングで分けつをコントロールし、よりおいしい米にする。
田んぼに水がない期間が、カエルなどの生息に影響を及ぼすという声もある。農村の生物多様性を脅かすと生態学者から指摘されると、地球環境にとって本当にいいのか分からなくなる。
何のために米作りをするのか。ちゃんと考えないと、データやお金に振り回されそうだ。