【ブドウ畑に吹く風Ⅱ~ワイン造りに携わる人々】#19 地元ワインのこれから

新規参入ブドウ栽培者の希少なワインを味わったセミナー。積極的な交流が目立った

新しい土地で個性ある味を

3月2、3の両日、松本市の信毎メディアガーデンで開かれた「アウトドアワインフェスト」。中信地区の老舗から新興ワイナリーまで、21社が出店しにぎわった。
この中で、新しい趣向のセミナーが注目を集めた。将来のワイナリー設立を目指してブドウを栽培し、現在は委託醸造している新規参入組の、ワインのテイスティング(味の鑑定)だ。
登壇した生産者5人中3人が塩尻市片丘地区でブドウを栽培する。吉江豊さん、鳴澤佳生子さん、橋本美範さん。皆、塩尻ワイン大学で学び、夢の一歩を踏み出した。
標高750メートル前後、朝晩の寒暖差や水はけのよい土壌がブドウ栽培に適し、松本平や北アルプスの眺望が魅力の片丘地区。地域が主体となり遊休農地と新規参入者をマッチング、個性あるワイン造りを目指す参入組の受け皿となっている。
3人ともワイン造りを目指した経緯はバラバラだが、それぞれに物語がある。一致するのは、新しい土地の可能性を模索しながらも「自身の作りたいものを作る」点だ。吉江さんはマルスランやヴィオニエなど珍しい品種を栽培。鳴澤さん、橋本さんは徹底してナチュール(自然派)ワインにこだわる。
会場は生産者との交流を求めるワインファンの熱気であふれ、新しい味や個性を求める期待感が伝わってきた。ある参加者の言葉が私の思いと重なった。「ワインは地産地消の品。この土地に住んでいる喜びを感じ、大切にワインを飲もうと思った」

昨年3月から約10カ月、初体験となるブドウ畑での農作業や醸造の節目に立ち会ってきた。人間の手を介しながらも自然の恵みを頂き、再び自然の摂理に従ってブドウがワインになる。多くの工程と時間を経て到着するワインへの旅に、駆け足ながら同行させてもらった。
天候やタイミングを見極め、時には心身ともに追い詰められながら、多岐にわたる作業をこなすワイナリー。その厳しさ、強い思いにも触れた。
恵まれた風土と生産者の熱意に感謝しつつ、今後は一消費者として、ブドウ畑に吹き抜ける風(潮流)を感じ続けたい。
〈おわり〉