【記者兼農家のUターンto農】#132 スマート農業

実演見て未来にわくわく

農業の未来がこっちの方にあるのは分かる。でも、現実感はいまひとつ。
何かと言えば、「スマート農業」だ。ロボットやデジタルなどを活用して、作業を効率化したり作柄を良くしたりする。担い手が少なくなる業界には欠かせない技術だ。兼業農家にも心強い。しかし、身近には気配すら感じない。
だから、近所で塩尻市農林課が自動操舵(そうだ)トラクター実演会を開くと知ってすぐ取材を決めた。22日、広丘堅石の田んぼに出かけた。
主役のトラクターは屋根にアンテナが取り付けられていた。受信した位置情報で、ハンドルに付いた装置が働く。デコボコの耕地でも真っすぐ、無駄なく走行できる。田畑の形を登録すると、端でスムーズに旋回する。
持ち主の西村規男さん(71)は、これで水田15ヘクタールを耕す。「(トラクターに慣れない)娘でも同じようにできる。ガタガタ動くハンドルをしっかり握らなくていいから体が楽」。なるほど、よさそうだ。
問題はコスト。「いくらかかるの?」と、参加の農家が聞いた。メーカーの担当者によると、後付けの装置一式で300万円前後という。位置情報の精度を誤差15センチから3センチに上げようとすると、さらに数十万円。
「高いなあ」と嘆息が漏れた。私も同じ。せいぜい数ヘクタール規模の経営には高根の花だ。
実際、導入例は少ない。購入時に市が補助金を出す制度は、2020年度の実施から西村さん1人の利用にとどまる。
ただ、違う感想を持つ小規模農家もいた。小澤裕也さん(29)は市内でキャベツを2ヘクタールほど栽培する。「うちの畑は狭いし、自動トラクターは合っていない」と言う一方、「技術はここまで来た。収穫の自動化ができればいいと願っているが、実現は近いかも。来てよかった」と笑顔を見せた。若者は、スマートの可能性を幅広く感じ取っていた。
百聞は一見にしかず、私も実物の働きぶりを見るとわくわくした。未来は確かに近づいている。
<おわり>