【記者兼農家のUターンto農】#62 薬草

河原の「雑草」を栽培

小学校時代の同級生から手紙をもらった。この連載を読んで、私を思い出してくれたらしい。自分も農業をやっているという。
作物が気になった。カワラヨモギ。薬草だという。近所で薬草が栽培されているとは思いもしなかった。
松澤孝市君(49、塩尻市片丘)と会うのはおよそ30年ぶり。優しい話し方が変わっていなかった。
実家の田畑で本格的に農業を始めたのは10年ほど前という。カワラヨモギは、県の職員に教えられたのがきっかけだった。
文字通り、ヨモギの一種で河原に生える。見た目は雑草。松澤君は、とある川沿いで採取するのだが、何をしているのか尋ねられることがある。「薬草だと言うとびっくりされる。こんなところに、って。ほんとだよね」と愉快そうだ。
持ち帰って、苗木として畑に植える。一夏育てると、枝に小さな粒々がたくさんできる。これが薬になる。
松澤君の出荷先、高木商会(松本市)の岩間誠一社長(70)によると、粒々は乾燥させてツムラ(東京)といった製薬会社に卸す。肝臓などに作用する成分として漢方薬に使われるという。
カワラヨモギを含め薬草は中国産が8割を占める。最近の業界の心配の種は供給不安。国内産への期待が高まっているが、現場の高齢化が問題になっているという。一般の農業と事情は同じだと気づかされた。
松本平でのカワラヨモギ栽培は5軒ほど。「お薬になる意義を感じて作ってくださる」と岩間さん。あまり農家にはうまみがなさそうな口ぶりだった。
それにしては松澤君は楽しそうだ。「草取りが大変で」。元が雑草のようなものだから、除草剤を使うと一緒にやられてしまうという。旧暦に従った昔ながらの農法の知恵にも学んでいる。試行錯誤が面白いようだ。
松澤君の芯に、こんな探究心と粘り強さがあったとは。教えられ、励まされる再会だった。