【記者兼農家のUターンto農】#123 再生二期作

温暖化が生む新たな稲作

稲刈りからしばらくすると、切り株から新たに芽が生えてくる。「ひこばえ」だ。このまま育てたら米がまた取れるのだろうかと、昔から興味はあった。
身近な例に豆苗(とうみょう)がある。1度茎を切り取っても、根っこの部分を水に浸して台所の隅にでも置いておくと、また茎が生えてきて、おいしく食べられる。
稲でもできたらいいと思うが、降雪前に実らせるのは無理な話。現実は、秋起こし作業で切り株と一緒に土に混ぜ込んでしまう。
だが、ひこばえを育てて、立派に収穫できたというニュースが最近報じられた。
稲作の「豆苗方式」に成功したのは、国立研究開発法人の農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)。5日付の信毎によると、福岡県の農場で2021年と22年に試験栽培を行い、2回の稲刈りの結果、年間収穫量は通常の倍近くになったという。
さすがに豆苗方式とは呼ばず、「再生二期作」という。沖縄などで行われる通常の二期作は、2作目も田植えから始める。それに対し、最初の苗を生かすのが再生二期作だ。
農研機構によると、温暖化で、より早い田植えや遅い収穫ができるようになったことが背景にある。それでも元から温暖な地域だからできることで、「適用可能なのは福岡県と春や秋の気温が大差ない関東以西を想定している」という。当面、信州には縁のない技術ということになる。
このニュースの翌週にも、温暖化関連のニュースに触れた。作況指数の発表だ。
9月25日時点で、長野県全体は99、中信は100の「平年並み」。ひと安心して隣の新潟県が気になった。見ると、95の「やや不良」。猛暑と水不足で、収量にカウントされない未熟米が増えたという。今年が特別とはいえ、将来の温暖化の影響を想像させる。
温暖化の益にあずかる地域と、害を被る地域。そのせめぎ合いが狭い日本の稲作にあることを思わせる二つのニュースだった。