【記者兼農家のUターンto農】#98 ドローン

現場を見るとアイデア次々に

「ドローンで肥料をまく実演会を開くんです」。取材先でそう誘われた。麻績村の遊休農地でもち麦を作っている住民団体「OMIMO(おみも)」が、追肥をするのにドローンを試すのだという。
実物を見る機会を逃すまいと、4月10日、山あいの耕作地を訪ねた。急勾配の土手に囲まれた1反(10アール)ばかりの農地が連なっている。どこか実家の周囲と重なる風景だ。
その中空をドローンが飛んだ。土手に立つと手が届きそうな高さを、滑るように走る。
近くに来ると、カラカラと軽い音がした。発酵鶏ふんの粒が付属タンクから外に飛ばされる時の音だった。そんな小さな音が聞こえる。モーターやプロペラの動作音が案外うるさくないことに気づかされた。
「不快な音じゃないね」。そばにいた見学者も意外そうな声を漏らした。「早朝からやっても苦情が出ないんじゃないかな」
「ドローンが飛んでるところを見てみたい」と、三々五々集まった人は10人余り。農家や農協、行政の職員もいた。
実際に目の当たりにすると気づきがあるものだ。音のことの他、「種まきもできるんじゃないか」「カメラを付ければ生育の具合を確かめられる」「あぜ草も刈ってくれねえかな」…。アイデアが次々とつぶやかれた。
実演会は、おみもと「サニーバード」(松本市並柳1)が企画した。映像制作を手がける同社は、ドローン事業参入の手始めとして、今春、農業分野で販売や作業代行を始めた。大手が先行する物流を除けば、農業用ドローンの実績が一番という田中康司社長(49)の判断だ。
この日飛ばした機種は、一式198万円。撮影もあぜ草刈りもできないが、「見ると欲しくなる」と1人が苦笑いすると、周りもうなずいた。「百聞は一見にしかず」で、現場で触れると可能性を刺激される。
北海道で1年間研修した田中さんによると、信州は農業用ドローン後発県というが、広がり出せば普及は速いかもしれない。