【記者兼農家のUターンto農】#106 雨中の作業

悪条件にも、ならではの良さ

今年は、梅雨らしい空模様の日が多い。
朝のリーフレタスの収穫中、いきなり父が「雨の中の作業はけっこう好きだ」と独り言のように言った。意外だった。
目が覚めて雨が降っていると気が重いものだ。かっぱを着れば雨そのものは気にならなくなるが、足元がぬかるむのはやっかい。
泥はねでリーフの葉や段ボール箱が汚れないように気をつけながら、箱詰めし、運ぶのも手間がかかる。段取りの呼吸が合わずイライラし、ついに朝から父子で怒鳴り合うということもある。
なのに、父は「好きだ」という。その時の雨は、しとしと降る雨。作業の手を休め、周りを見渡すと、「確かに悪くない」と思った。
早朝に雨音を聞く。リーフを取り終えてむき出しになったマルチシートを雨粒がたたいて、パラパラと小気味いい音を連ねる。うるさいと思うより、落ち着きを感じる。
ひと頃、「f分の1ゆらぎ」という言葉をよく聞いた。規則的なような不規則なような、適度なバランスのリズム。心地よくて、集中力を高めるという研究がある。川のせせらぎや小鳥のさえずり、そして雨音にも含まれるという。
そのマルチの上をツバメが横切る。「ツバメが低く飛ぶと雨が降る」というが、降っている最中でも低く飛ぶ。軽やかに曲線を引いて、何羽も舞う。その様子を間近に見るのは楽しい。
子どもの頃、雨は嫌いではなかった。というのも、野良仕事の手伝いが免除されるから。「晴耕雨読」だ。そのおかげか、思えばその頃も雨音に落ち着きを覚えていた。
大人になってUターンすると、「雨読」とはいかない。リーフは成長を続け、収穫適期は待ってくれない。雨天に長く置くと、病気になることも心配だ。
好印象の原体験を胸にリラックスしたり、リフレッシュしたり、雨の時季も精を出せればいい。たまのいさかいも作業のアクセントと思おう。