夭折の画家知る回顧展

病魔と闘う運命と向き合いながら30歳という若さで亡くなった画家・須藤康花さん(1978~2009年)の大規模回顧展「須藤康花~光と闇の記憶」が、松本市美術館(中央4)で開催中だ。20代は麻績村でも創作活動に取り組んだ康花さん。絶望ではなく希望を求めた作品約200点を展示している。3月24日まで。
純粋に絵が好きだった幼少期、画家として生きる決心をキャンバスに投じた10代、生と死の葛藤を描いた20代、さまよい続けた洞窟から見つけた光を銅版に込めた最晩年…。展覧会は8章で生涯をたどり、油彩や水彩と銅版、詩を並べる。
「この虚しい悲しみは作品で昇華しよう。それ以外乗り越えられる方法はない」。会場の一角にある、康花さんが30歳の時に書いた言葉だ。幼少期に難病を発症し入退院を繰り返した。幼い弟と最愛の母を病で亡くし、自身も母と同じ病気を発症。死を考えたが、献身的に看病してくれた母の死を無駄にしてはならないという思いで描き続けた。
そんな康花さんだが、麻績村で過ごした20代半ばには幸せな時間もあった。有機農業を始めるのを機に東京から移住した父・正親さん(82)と共に農作業に汗を流し、近所の子どもたちに絵を教えた。しかし29歳で肝臓がんが見つかり摘出手術、闘病の末、生涯を閉じた。
康花さんは生前、作品を父に見せなかったという。没後、千点以上を残したことを知った正親さんは2012年、父子の思い出深い松本市に「康花美術館」(北深志2)を開館。今回の大規模展は、市美術館が地域ゆかりの現代作家12人を紹介した展覧会(21年、松本パルコ)で、唯一の物故作家として康花さんの作品を紹介したところ反響が大きかったため実現した。
来場した千葉県の会社員女性(23)は「語(ご)彙(い)力にも絵画にも圧倒された」、松本市里山辺の会社員男性(59)は「本人の気持ちを想像しながら鑑賞した。重いテーマだが、麻績村で穏やかに過ごせたのはよかった」と話した。
午前9時~午後5時。大人千円、大学高校生と70歳以上の松本市民700円。月曜(休日の場合は翌日)休館。同館TEL0263・39・7400