県産ブドウ「竜眼ワイン」の可能性にかける

知名度上げ代表的なワインに

「竜眼」。善光寺ブドウとも呼ばれ、読んで字のごとく竜の目のように薄赤く輝く、ワイン用ブドウ品種だ。
県内では北信を中心に古くから生産されてきた在来種だが、農家の高齢化や価格の安さなどから生産が年々減少。中信では地元ワイナリー数社が白ワインとして製造販売するが、生産量は伸び悩む。
竜眼を創業時から自社の柱に据えるワイナリーが、安曇野市にある。塩瀬豪さん(36)、齋藤翔さん(36)が営む「ル・ミリュウ」(明科七貴)だ。
竜眼をオレンジワイン(赤ワインのように果皮や種ごと発酵)に仕立て、山梨のブドウ品種「甲州」に匹敵するようなブランドとして育てていきたいと、大きな夢を描く。竜眼の可能性にかける二人の思いとは。

満足の出来2月に発売

安曇野市明科七貴の元JA支所を改装、ポップなペイントアートの外観が目を引く小規模ワイナリー「ル・ミリュウ(フランス語で真ん中、中心の意味)」。
昨年秋に仕込んで搾(さく)汁(じゅう)を終え、ステンレスタンクで熟成中の2023ビンテージ(ブドウの収穫年)の竜眼。コックをひねると、滑らかで淡いオレンジ色の液体がグラスに流れ出す。「いいブドウが取れ、酸もしっかり、オレンジワインらしいタンニンもあり、満足できる仕上がりになりそう」。熟成が完了し、発売できる2月を待ちわびる。

県の在来種自社の柱に

小諸市出身の塩瀬豪さんと安曇野市生まれの齋藤翔さんの2人は、年も血液型も星座も同じ。塩瀬さんは安曇野市内のワイナリーで醸造を手がけ、齋藤さんは飲食店でソムリエとして働いた後、醸造を志してワイナリーに勤めながらブドウ栽培を始めた。ワインに携わる若手の集まりで知り合って意気投合。30歳だった2018年、安曇野市を含む広域のワイン特区開始を見込んだタイミングでワイナリーを立ち上げた。
明治時代に中国から伝来し、元は生食用として、県内でも多く生産されてきた竜眼。古くから善光寺周辺で栽培され、現在も生産はほぼ長野県のみだ。
安曇野でも作られたが、棚栽培で手がかかる割に買い取り値が安いため、生食用の他品種に切り替えたり、農家が高齢化で畑を手放したりして生産量は激減。「地域とともに歩む持続可能なワイナリーとして、この土地にあるものを有意義に使っていきたいと思った」(塩瀬さん)と、開業当初から竜眼のワインを軸に据えた。
通常は白ワインに仕立てられる竜眼だが、他社との差別化を図り、当初から皮や種ごと発酵させるオレンジワインにした。前例がないので試行錯誤を繰り返し、日本ワインブームやオレンジワインの珍しさも手伝って、今では生産量の4割近くを占めるフラッグシップワインに成長した。
この土地の竜眼を使うことで、衰退が進む地域農業を支えたいという思いも強い。一昨年まで、原料の9割が買ったブドウだったが、昨年は高齢化で作業が難しい農家を手伝った結果、自社ブドウの比率が一気に約5割に高まった。「高齢者が栽培を引退しても、自分たちの世代が担い手になれる自信がついた」と齋藤さん。栽培から醸造まで手がけ、自身が思い描くワイン造りにもさらに近づけた。
「今後はもっと竜眼の知名度を上げ、山梨の甲州(品種名)に匹敵するような、代表的なワインにしたい。そして後世に残していきたい」
二人らしく、気負わず、志は高く。安曇野の竜眼とともに今年も成長を遂げる。