信大寮生がみそ老舗店の継承に一役

共に「貴重な味」守る頼もしさ

江戸・天保期創業の松本市のみそ店「萬年屋」(城東2)で、恒例のみそ玉作りが行われた。地味な力仕事に、信州大「思誠寮」(横田3)の寮生が毎年アルバイトに駆け付け、老舗の味の継承に一役買っている。
みそ玉のみそは店代々の看板商品。チーズのような風味が人気だ。3月下旬、5日間で3トンの大豆から約千個のみそ玉を作る。大豆の袋は一つ30キロ、みそ玉も1個6キロ。若者の力が必要になる。
「おかげで良いみそができそう」。最終日の3月30日、6代目店主今井誠一郎さん(59)が寮生の松澤東風(はるかぜ)さん(26、大学院1年)と石原隆聖(りゅうせい)さん(21、人文学部3年)に伝えた。

不可欠な働き手信大寮生との絆

店主の今井誠一郎さんの号令に、松澤東風さんと石原隆聖さんは、大豆袋を楽々と持ち上げ、洗穀機につながるコンベヤーへ大豆を次々投入した。
汚れを落とした大豆は圧力窯で蒸し、ミンチ状に潰してから高さ25センチ、直径20センチの円筒形のみそ玉に固める。出来上がったみそ玉を2人はてきぱきと台車に載せ、熟成室へと運んだ。
重い大豆袋やみそ玉を持ち上げたり運んだりしても、2人は平気な顔。今井さんが詳しく指示するまでもなく、仕事をこなす。松澤さんはアルバイト3年目で経験十分。2年目でまだ日が浅い石原さんをサポートした。
先代店主の文夫さん(2020年死去)が元気な頃は今井さん父子と従業員の3人で作っていたが、文夫さんの引退後はアルバイトが必要になった。人材確保に思案した18年、試しに信大近くの食堂に求人の張り紙を出してみた。
ほどなく信大生数人から応募があった。その中の思誠寮生が、グループLINEで他の寮生を誘ったため、張り紙なしでも毎年寮生から応募者が現れるようになった。22年からはアルバイトの主力となり、今年も8人中6人が寮生。急に行けなくなる人が出ても、LINEですぐ代わりが見つかった。こうして寮生が、みそ玉作りに不可欠の働き手になった。
寮生にとっても有意義だった。松澤さんや石原さんは「伝統あるものづくりに、じかに触れる喜びを知った。一緒に汗を流したことで寮生同士の親睦も深まりました。だから希望者が途切れません」と説明する。
思誠寮は現在、男子学生約40人が入寮し、自炊生活を送っている。松澤さんが4月初め、寮でキムチ鍋を作り、アルバイト仲間を呼んだ。アルバイト経験者の寮生OBも話を聞きつけて輪に入った。鍋をつつくと「うまい」と全員が感嘆した。
実は隠し味に同店のみそを混ぜた。今井さんから給金と一緒に渡されたみそだった。「僕たちが去年仕込んだみそだよ」。松澤さんの種明かしに場がどっと沸いた。
みそ玉は乾燥と熟成が進んだ4月中旬、細かく砕いて麹(こうじ)と塩を混ぜ、タンクに移す。ひと夏寝かせ秋が深まると、チーズのような風味を持った店自慢のみそが完成する。今年の作業でも寮生たちが活躍した。
今井さんは「みそ玉を作っているみそ蔵は県内でも数えるほど。彼らが一緒に貴重な味を守ってくれるのは頼もしい。アルバイトを通じて友情を深め、松本での青春の一ページにしているのもうれしい」と話している。