胃も心も満たす「物語食堂」 松本の「アルプスごはん」でウチダゴウさん詩の朗読

松本市の食堂「アルプスごはん」(深志3)で1月6日夜、同店恒例の「物語食堂」が開かれた。店主の金子健一さん(49)の料理と安曇野市の詩人ウチダゴウさん(41)の詩の朗読を味わう企画。6人の参加者は胃も心も満たされた。
金子さんは大地震があった北陸地方の食材で数品の料理を作り、ウチダさんは書き下ろし新作7編を披露。軽妙なトークも挟み、和やかな雰囲気だった。
ウチダさんはかつて「物語食堂」を都内のカフェで催していた。そこに来ていた金子さんに「松本でやりませんか」と提案。2018年2月から「アルプスごはん」で始まった。
コロナ禍での中止を挟み、今回で8回目。高い人気に加え、2人の友情と互いへの尊敬が、回を重ねられた理由だ。

能登半島・輪島の岩ノリと自家製なめたけのあえ物、珠洲(すず)の揚げ浜塩と金沢の紅(べに)こうじみそで握ったおむすび―。「アルプスごはん」で午後6時半に始まったイベント「物語食堂」。北陸の食材を盛り込んだ金子健一さんの料理に、6人の参加者は「初めて知る味」と舌鼓を打った。
金子さんは横浜市に住んでいたが、2017年、妻の地元である松本に移住し、同店を構えた。厨房(ちゅうぼう)を囲むカウンター6席のみの食堂。普段は信州の無農薬野菜中心の料理を出している。
ただ、この日は「みんなで被災地復興を祈りたい」と、入手できた北陸の食材も使った。北陸は仕事や旅行で訪れた土地。甚大な被害に胸を痛めた。「北陸の食材はおいしいものばかり。いつか足を運んでみてください。それも支援なので」と参加者に語りかけた。
「物語食堂」は6年前の初開催以来、半年に1回の間隔で開催している。趣向を凝らした料理と小食堂での詩の朗読という斬新な組み合わせが、金子さんとウチダゴウさん両方のファンから「身も心も安らぐ」と支持された。
食事が一段落すると、ウチダさんが厨房の真ん中に。「今年の目標は1年を通じてお餅を食べること」「2月は好きなアイドルの握手会に行きます。もう緊張しています」と笑いを誘って雰囲気を和ませ、詩の朗読に入った。
「みらいよそうず」「よるのきつね」「せんとらるぱーく」など、詩はどれも平仮名書きで、身近な出来事や話題から発想した内容。参加者はゆっくり言葉をかみしめる朗読に導かれ、想像の世界に足を踏み入れた。
最後の7編目の朗読が終わると、時刻は9時半。安曇野市から参加の女性(55)は「心のこもった食事と詩を満喫した」、京都市の男性(36)は「目の前での詩の朗読は、自分で詩集を読む以上にイメージが膨らんだ」などと感想を語った。
家路に就く参加者を見送った後、金子さんは「今日は本当に作りたかったものを作った。特におむすびは『北陸への思いをぎゅっとむすびたい』という気持ちを込めて握った」、ウチダさんは「7編の書き下ろしは楽ではないが、お客さんの反応が良くてうれしかった」と振り返った。
二人は互いに尊敬し合う仲。「ゴウさんは他の詩人がやらないようなことにチャレンジしている」「私がここで新作を発表するのは、金子さんがいつも旬の食材で料理する姿に感化されたから」
続いて金子さんが「私もゴウさんのように話が上手で面白い人になりたいなあ」と漏らすと、ウチダさんは「金子さんは真面目過ぎる。もっと僕みたいに『何事も楽しく』で行かなきゃ」と笑顔で返した。「でも性格が違うから馬が合い、『物語食堂』の魅力が増すんだよね」と最後は意見が一致した。
次回の「朗読食堂」は開催日が決まり次第、同店かウチダさんのSNSで告知するという。