松本歯科大鷹股哲也特任教授に聞く─口腔の健康とスポーツの関係

スポーツのパフォーマンス向上を目的に、歯や口腔(こうくう)の健康維持を意識している人がどれだけいるのだろうか。昨年末に、プロ野球球団が、選手の一斉歯科検診を行ったことがニュースで取り上げられるなど、スポーツと歯や口腔の健康管理は重要な関係があるようだ。昨年発足した「県スポーツデンティスト協議会」会長で、松本歯科大(塩尻市広丘郷原)の鷹股哲也特任教授(76、歯科補綴(ほてつ)学専門)に話を聞いた。
─かみ合わせと運動能力との関係は
上下の歯の正しいかみ合わせは、スポーツの基本姿勢の直立時や、動きの中での平衡バランスに非常に重要な意味があります。
直立姿勢で、上下の歯が接触していない状態と、軽くかんだ状態とで重心の揺らぎの大きさを計測した実験では、静的(じっと立っている状態)バランスは、かんだ状態の方が3・6%低くなりました。これは、咀嚼(そしゃく)筋の収縮で頭部が固定され、抗重力筋(全身のバランスを取る筋力)群へ影響したと考えられます。動的(体を動かす、外力が加わる状態)バランスも、軽くかんでいる方が揺らぎが低いことが分かっています。
中学生の定期健康診断で得た、かみ合わせの接触状態とかむ圧力(咬合(こうごう)圧)を合わせた「総合的咬合力」のデータがあります。このデータにスポーツテスト(文部科学省基準)の結果を合わせてみると、総合的咬合力の高い生徒たちは、そうでない生徒たちに比べて全般に運動能力が高くなっていることが分かりました。かみ合わせがしっかりあることが、運動能力にも影響していることを立証した調査です。
日々の食事でしっかりかめる健康な口の状態を維持、管理することは、身体と運動機能に関連し、脳の活性化や全身の健康維持に大きな影響を及ぼすことが明らかになってきています。スポーツのパフォーマンスを上げるには、正しいかみ合わせで咀嚼し、摂取したエネルギーが必要で、これが運動能力を最大限に発揮する源になります。
─歯の本数、「かみしめ」と筋力との関係は
かめる歯の本数と背筋力との関係を調べた調査では、かめる歯の本数が減れば背筋力も明らかに小さくなる結果が出ています。
また、「かみしめ」でパワーを発揮する筋肉は、ふくらはぎのヒラメ筋。運動生理学では「遠隔促通」といわれ、力を入れた部位と離れた部位で筋活動が向上することです。実験では、かみしめるとヒラメ筋の活動が明らかに上がっています。
─唾液の重要性は
運動時の口腔の乾燥を防ぐとともに、唾液に含まれる抗菌物質、免疫物質はウイルスなどの感染防止の役割があります。また唾液の減少は、虫歯や歯周病の進行にも関わりがあります。
激しい運動をすると口呼吸になり、口腔が乾燥することは事実。緊張により唾液の出る量が少なくなることもあります。
防止には、ガムをかむのがお勧め。咀嚼筋や顔面筋を積極的に動かし、唾液腺を刺激して唾液の分泌を促進することが大切。唾液腺のマッサージも効果があります。耳下腺(耳の前あたり)、顎下腺や舌下腺(顎の下の部分)を手のひら、親指などでマッサージします。
─意識してほしい年代は
接触を伴うスポーツで口腔内の外傷予防に役立つマウスガードの重要性も含めて、歯や口腔健康管理は小さい頃からの意識付けが大切。保護者にも必要性を理解してもらう機会を増やしていきたいと思います。
(本記事は多数の文献を参考にしています)