大気光学現象の共演 心躍る冬の美ケ原

「吉兆」とされる大気光学現象が重なった絶景。最上部に「環天頂アーク」、下部に太陽を中心に「幻日」と「日暈(内暈)」が現れた(2月29日午前7時48分)

環天頂アークとシュカブラ

標高約2千メートルに大雪原が広がり、360度の眺望が開ける美ケ原高原(松本市、上田市、長和町)。吹き荒れた強風がやんだ2月8日と29日、シュカブラ(雪紋、風雪紋)の造形美に合いたくなり、未明の雪原に立った。大気中の氷の結晶に太陽光が反射、屈折して起こる「幻日(げんじつ)」と「環天頂(かんてんちょう)アーク」にも遭遇。心が踊った撮影を振り返る。

【黄金色に染まるシュカブラ】
午前6時28分。赤、朱、オレンジ、黄金…。刻一刻と変幻する朝日を浴びて、輝くシュカブラの表情が生き物のように変わる。雪と強風が創り出した、繊細な大自然の芸術に見とれる。その造形は、雪の湿度や風の強さで大きく変わる。撮影は気象条件が大きく影響するが、日の出後15分間と、日の入り前の15分間が狙い目だ。
【驚きの大気光学現象との出合い】
7時30分。高原のシンボル「美しの塔」と、王ケ頭の中間点付近。シュカブラの造形美に見とれながら八ケ岳方面の上空を仰ぐと、太陽の右側に光が現れた。「幻日だ!」。薄雲の流れが太陽を包み、どんどん広がっていく。
7時37分。太陽の左側にも幻日が現れ、次第に彩りが濃くなっていく。太陽を中心にした左右の輝きが美しい。「幻日環(かん)」と呼ぶ、太陽を貫く光の輪も薄く現れている。太陽の周りには虹のような光の輪「日暈(ひがさ)」(ハロ現象)も。
7時48分。太陽の46度前後の上空に、幻日や日暈よりまれな「環天頂アーク」がくっきり浮かび上がった。アークは「弧」「円弧」を意味する。太陽に向かって虹色の弧を描き出すことから「逆さ虹」との呼び名も。神秘的な光景に思わず手を合わせる。
8時40分。太陽の左右に現れていた幻日は消え、上空の環天頂アークも肉眼での確認が難しくなった。同時にはめったに見られない現象は、約1時間続いた。
「幸せ・幸運」の前兆といわれる環天頂アークに、遮る物がない美ケ原高原の白い雪のステージで遭遇した。夢のようなこの偶然の出合いこそが、最高の幸運だ。微妙な気象条件で変幻する大自然の作品に、二つと同じ物はない。自然に向かい感謝の言葉を述べ、撮影を終えた。

【環天頂アーク】太陽の上方の離れた空に、虹のような光の帯が現われる現象。円弧の中心は天空側になり、色は上から青、緑、黄、赤の順に並ぶ。
大気光学現象の一種で、大気中の水滴や氷晶(小さな氷の結晶)により、太陽光が反射、屈折、回折することにより見える。
出現しやすい時間帯は朝と夕方。日の出から2時間と、日没の前2時間。太陽高度が22度の時が、最も明瞭になる。
(丸山祥司)