天然木曽ヒノキのまな板 ブランド立ち上げ

野尻木材工業所 纐纈直之さん 大桑村

大桑村野尻の野尻木材工業所は天然木曽ヒノキのみを扱う製材、販売会社だ。ヒノキの香りに満たされた製材所には、丸太をはじめ、さまざまな大きさにカットされた木材が所狭しと並んでいる。
その一角で材木にかんなをかける纐纈(こうけつ)直之さん(42)。3代目の父・和人さん(72)が営む製材所で仕事をして10年になる。以前は東京のアパレル会社で働いていたが、天然木曽ヒノキ専門製材会社の家業に誇りを感じUターンした。
良質な木材である半面、価格の高さや木造建築の減少などで需要が限られる現状を目の当たりにした。そこで考えたのが、まな板としての活用。生活に密着した商品で多くの人に手に取ってもらおうと、オリジナルブランドを立ち上げ、販売を始めた。

家業に誇り感じUターンし働く

大桑村の野尻木材工業所で、「主に樹齢250年以上の天然ヒノキを使用しています」と話す纐纈直之さんが手にしたのは、まな板の数々。厳しい自然環境で育った木曽谷のヒノキは、目が細かく丈夫なのが特長だ。
丸太を芯の部分から端にかけて縦に切って製材することで、水平で美しい木目が出る「柾(まさ)目」の一枚板にこだわっている。希少な木材を扱えるのは製材、販売店ならではの強みだ。
同社の木材は建築のほか、仏像彫刻や能面、建具、神具などに使われており、オリジナルブランドは初の試みという。
木曽町の木曽高校(現木曽青峰高校)を卒業後、ファッション業界で働きたい─と、文化服装学院(東京都)へ。卒業後は、アパレルメーカーでオリジナルブランドの企画から営業まで携わった。
同社は1952(昭和27)年創業。直之さんが小学生の頃は村内に同業者が多かったものの、中学生時代から減り始めた。東京で働きながらも「自分が継がなかったら絶えてしまうのかな」という思いが、常に頭の隅にあった。
ファッション業界で10年がたち、村内で木材を扱う事業所もわずかに。家業を手伝うことで地域に役立ちたい|と大桑村に戻った。初めて取り組む製材の仕事は、分からないことだらけ。機械の扱いは特に難しく、何度もけがをし、落ち込んだ時もあった。

妻と力合わせて 独自ブランドで良木を世に

そんな直之さんを励ましてきたのが妻の悠乃(ひろの)さん(40)。東京出身でファッション業界で働いた後、直之さんと結婚し同村へ移った。「天然木曽ヒノキの良さを発信するために、自分たちにしかできないことを」と話し合った。
高価なイメージでも、まな板なら取り入れやすい─と、サイズ感や使い勝手など主婦目線でアドバイス。販売時はごみが出ないようキッチンで使えるさらしを包装紙の代わりに巻いて渡すなど、環境にも配慮した。
ブランド名を屋号の「ヤマイチ」と決め、昨夏から中信地区のマルシェで販売を開始。17日は信毎メディアガーデン(松本市中央2)で開く「松本ていの市」に出店する。
同社の製材量は月に約10立方メートルで、最盛期の10分の1だ。直之さんは、まな板がきっかけとなり、建築材にも利用する人が増えることを願う。樹齢250年の木曽ヒノキと向き合い、「想像が及ばないくらいの大先輩を扱う責任に背筋が伸びる。この木を世の中に出していくのが自分たちの使命」と表情を引き締める。
まな板は1980円から。木曽町福島のセレクトショップ「en(えん)─shouten(しょうてん)」でも販売。問い合わせは野尻木材工業所TEL0264・55・2044