[創商見聞] No.94 「ヤミツキマツモト」 (小宮山 昌伸)

情報発信オジサンを続ける

【コミヤマ マサノブ】42歳。松本市南原出身。帯広畜産大畜産管理学科卒。2012年ヤミツキマツモト創業。

ヤミツキマツモト

松本市南原2-14-30 ☎090-6942-4519

―獣医の目標から
 中学生の時は、動物好きで将来獣医になるつもりでした。南安曇農業高校に進み、ソフトテニス部で部長を務め、生徒会長にも立候補し、就任しました。その頃から人前に立つうれしさの芽が出てきたと思います。
 楽しい高校生活を過ごせましたが、父の他界もありました。家庭環境が変化して私立大の獣医学科進学が難しくなり、国立の帯広畜産大を選びました。卒業後は帰郷し、乳製品などの物流に関わる仕事をしたのですが、2012年、30歳で脳梗塞を経験しました。10年以上たった今も、左半身は温度と痛みを感じにくくなっています。
 若いうちに重い病気を経験したことは、大きかったかもしれません。体が動かなくなっても稼ぐ力を付けておきたい、自分から発信できることをしたいと強く感じたからです。同年10月に立ち上げたのが「ヤミツキマツモト」というメディアです。最初は、自分の色を出せたら―という感覚で、収益など関係なくブログからスタートしました。地域の食べ歩き情報を中心に発信しました。まだブロガーという言葉も広まっていない頃です。
 メディアとして地域情報を先行発信したのは大きく、月間15万PV(ページビュー)に達し、県内トップクラスのサイトを作っていたと自負しています。
 代表作はソフト麺のブログです。学校給食から消滅するかもしれないという記事や、県内のスーパーで販売されている麺の種類や調理方法など、多角的に展開したブログは、テレビでも紹介されました。


―移り速いネットメディア
 ヤミツキマツモトが成長して、通常勤務の合間にこなせる仕事量ではなくなったので、勤めの方は辞めました。
 本格的に地元ネットメディアとして活動しましたが、時代の変化はとても速かった。
 自分もブログからユーチューブにシフトチェンジしました。最初はグルメ系を配信しましたが、後発だったこともあり伸び悩みました。コンテンツづくりなどで右往左往するうちに、コロナ禍に突入。何とかアウトドア系の動画配信で閲覧数を上げていきました。
 最近はギア(道具)紹介として「全キャンパーに知って欲しい最新絶対買い」シリーズが知られています。
 ワークマン、ニトリ、コメリなど各店のブランド商品だけでキャンプをする動画は人気を集め、70万再生を超えています。また、「100円ショップだけのギアで雪中冬キャンプしてみた」など、エンタメ性を取り入れた動画も人気を集めています。
 業界の時代変化は激しく、特にユーチューバーは、参入が多く、細分化されている現状です。例えばゲーム関連の動画。3年前は単なるゲーム実況で良かった。これが2年前になるとアクション、スポーツなど、どの分野の実況かが問われる。1年前になると武器の紹介、キャラクター紹介などより特化した動画が注目される―というふうに変化しています。
 だから、単なるアウトドア動画では人気が集まらないため、ギア紹介に特化してきました。おかげでドン・キホーテ本社での商談やワークマンの新商品発表会等にも定期的に呼ばれ、メーカー2社と契約を結び、アンバサダー(広報)にもなりました。
 さらに信州の魅力を発信したい思いが募り、アウトドアイベントとして「ヤミツキフェス」を開催しました。昨年9月に全国の有名キャンプ系ユーチューバーらの参加を求め、宿泊イベントを開き、10月には県内のアウトドアブランドの出店、おやきや山賊焼きなどのキッチンカーを集結させ、「オール長野」でユーチューブ配信し、県外へアピールしました。
―現役プレーヤーだからこそ
 昨年は塩尻商工会議所主催で、動画集客セミナーも開催、講師を務めました。SNS対応などで困っている事業者が多いと聞き開催したのですが、その後も個別相談があり、塩尻エリアだけで1年で50件ほどお話しさせてもらいました。
 現役感というか、プレーヤーからリアルな話を聞けることを、メリットと感じてもらえているようです。事業者はSNSを自己流で運用してきた方が多く、変化の激しさに戸惑って相談されるケースが多くあります。
 ユーチューブの場合、登録者数千人以上、年間4千時間以上再生が収益化の目安となっていますが、AIシステムのアルゴリズム(計算方法)にどう乗せるかがポイントです。お薦めや検索結果に表示される動画の順番を決定させる仕組みを、システムのどの分野に関連させるかをガイドしています。
 ユーチューブもインスタグラムも、仕組みを理解すれば効果的ですが、時間がかかること、撮影・編集のランニングコストがある程度必要なことなども話し、サポートしています。
―継続への確信
 ユーチューバーもインスタグラマーも絶頂期は過ぎているので、最近は、「情報発信おじさん」と名乗っています。時代の変化が速いので、代名詞を前面に出し過ぎるより、ちょっと親しみが持てる肩書が良いかもと思っています。
 ユーチューバーなどネットフロントへの世間的な印象は、正直遊び感覚の延長で、その日暮らしのイメージが強いと認識しています。
 でもフットワークを軽くしていろんなことにアンテナを張り発信してきたことで、10年以上継続でき、以前よりも良いイメージに変化してきたとも感じています。
 新しい技術を逃さずインプットし、アウトプットできれば続けられる可能性は高い。アンテナ感度の高いおじさんをこれからも続けていきたいです。
(聞き書き・田中信太郎)