氷彫は冬の松本を飾る壮麗な心象風景(松本市)

氷彫作家たちが徹夜で制作した作品がモルゲンロートに染まる北アルプスと共演。自然光を浴びた氷彫が繊細な質感を際立たせて輝く=ニコンD5、ニコンEDAF-Sニッコール80~400ミリ、ハーフND2日午前6時52分

朝焼けの北アルプス背に輝く

冬の信州松本に一度だけ訪れる壮麗な朝がある。国宝松本城氷彫フェスティバル2020「全国氷彫コンクール・ワールドチャンピオンシップ」。2日、朝焼けの北アルプスを背に作品が輝いた。
全国トップレベルの氷彫作家が集い、海外から3カ国が参加。15チームが気迫と熱気を漂わせ、繊細な美と技の世界を競った。
夜空の下、チェーンソーがほえ、ドリルとグラインダーがうなる。夜が更け、日付が変わる。氷彫作家たちは、極度の緊張感に耐えながら懸命に制作に取り組む。目が、口が…。リアルな表情を刻み込み、氷彫に命を吹き込む。
氷彫の魅力は、美しくもはかない輝きにある。そのはかなさが心に響き、揺さぶる。作品は作者の技術、知恵、センス、経験、情熱、強靱(きょうじん)な体力の結晶であり、作者の魂そのものだ。
午前5時。制作が終了。赤、黄、青。氷彫作品がカラフルな照明を浴びて浮かび上がった。墨色から群青色へと移ろう松本城下の夜明けの風情。自然光に輝く氷彫を通し、北アルプスの朝焼けを眺めていると、深志神社境内にある江戸時代の狂歌堂真顔の歌碑「立て廻す高嶺は雪の銀屏風中に墨絵の松本の里」が重なった。
世界に誇る氷彫の朝の光彩は、冬の松本の心象風景だ。この光景を演出した氷彫作家、実行委員会、サポート隊に感謝したい。
(丸山祥司)