雨と靄が演出幻想的な光彩
上松町の赤沢自然休養林へと続く赤沢渓谷を5日昼に訪れた。激しい降雨が襲う渓流の岩肌にキソガワサツキの鮮烈な赤い花が明るく映え、川面には靄(もや)が漂い、日本画を連想させる幻想的な光彩が広がっていた。
雨降りの渓流の岩場は、滑りやすく危険だ。ヘルメット、ハーネス、カラビナ、ザイル。岩登りの登山用具で身の安全を確保し、撮影に挑んだ。
午後4時。一帯は次第に明るさを増し小雨に。突然、日が差し込み「狐の嫁入り」状態となった。だが、脳裏に描く撮りたい情景はまだ現れない。「雨降りでなければ撮れない絶景があるんだよ」。目の前で笑うサツキの花に語りかけ、ひたすら待った。再び雨足が強くなったその時、上流から川面を這(は)い、下流へ移動する靄が迫ってきた。「チャンスだ!」約5時間待ち、ようやく念願のショットが撮れた。
キソガワサツキは岩のわずかな隙間に根を張り、その生命力は驚くほどたくましい。激流にもまれながらひたすら耐え、幹や枝がもぎ取られてもまた芽を出し、花を付ける。一生を岩の上の厳しい環境で過ごすが、株によっては、その命は人より長いものもある。
山深い渓流の岩肌で、人知れず赤い花を付けては散り、命をつなぐキソガワサツキ。そのけなげな「生」がとても愛(いと)おしく、胸が熱くなった。
(丸山祥司)