2020.11.19 日本地域情報コンテンツ大賞・タブロイド部門で2年連続優秀賞

[創商見聞] No.51 鷲見 真一 (NPO法人 SCOP)

―信州大学時代
 なんとなく人間文化の探求をするつもりで来ましたが、授業より〝課外活動〟に一生懸命でした。
 入学当時、「信州大学新聞」という歴史あるメディアがありましたが、廃刊になりました。その結果、大学に学生向けメディアが無くなってしまったことを見て「信州大学第二新聞」を創刊しました。学内外のさまざまなことを取材し、見聞を広げました。
 いろいろ企画を立てましたが、目玉は「学生による授業評価プロジェクト」でした。
 「この授業は学生の知的好奇心を刺激するか」「この講義は単位を簡単にとれるか」など学生の立場から授業を評価するアンケートで、回答数400人からスタートして最終的には8000人の意見をまとめた冊子を作るまでになりました。このころ「起業してみたい」という思いも正直、芽生えていました。
 就職活動の時期には、自分の進路を模索するため休学し、新築マンションの販売を手伝った経験があります。実は作ったことがないのに不動産屋さんに「ホームページ作れます」と言って、松本商工会議所で技術を習いながら、マンションの間取りなどのページを作成し、販売営業も手伝って、最終的に一棟完売することができました。
 復学後、2000年に信大の大学院に進み、中嶋聞多先生(現同大特任教授)からマーケティングなどの情報を活用した問題解決の手法を学びました。
―大学院では
 進学直後から「山形村総合計画」策定の仕事を受けました。事業全分野の内容を見直し、これから10年間の村が目指す大方針を決める。つまり税金の使い方の優先順位を定める計画です。
 その時の私は村に住むどころか行ったこともなく、行政の計画内容を初めて知った状況でしたが、まずは村民の意向を確認しようとアンケート調査を実施。これには成人村民約6000人の8割以上(通常は4~5割)が回答してくれました。
 このアンケートでは、「村の良いところ、変えたくないところ」などの自由回答をKJ法という手法を用いて分類・分析し、1テーマ数千項目規模の情報を丹念に整理しました。
 解釈が難しい回答もありました。例えば「娘が畑の水が嫌だと言っている…」という回答から、「村に移住してきた家族が、通学路脇にあるスプリンクラーの散水が歩行者にかかることを不満に思っている(=新旧住民の対話不足の一端が見える)」などのように、かなり細部まで意見の行間を読み解きました。
 この作業を通じて、村民意識の構造を深く理解できました。その内容を踏まえ、総合計画の原案を作成し、議員に発表しました。
 基本となる理論や手法を勉強しながら、状況に合わせて修正し、実践に生かす大切さを学んだこの時の経験は大きいです。
―創業へ
 シンクタンク事業がビジネスとして成立する可能性を感じたことなどから、2003年起業しました。
 NPOにしたのは、欧米では事業型NPOが社会を変える一翼を担っていて、学生の就職選択覧の上位になっていることを知り、日本の地方でこれを実現したいと考えたからです。
 松本商工会議所には、大学で新聞を作っていたころからお世話になり、最初に構えたオフィスも紹介していただきました。創業後は「松本市商業ビジョン」の策定、空き家調査など、多くの業務に取り組ませてもらいました。
―創業後の一番の苦労は
 「NPOがお金を取る」ことの理解を得ることでした。
当初は「なんでもやる学生ボランティア」と受け取られがちで、調査費などの人件費を請求すると、驚かれることもありました。
 特に最初の3~4年は、組織を持続させるための価格交渉が必要でした。
この時期(2005年)に、当初の組織名「信州・大学地域連携プロジェクト」から現在の「SCOP」に変更しました。名称変更の背景には事業範囲を「大学と地域を結ぶさまざまな事業」から「シンクタンク業」に特化させていく決意がありました。
―ターニングポイントとなった第四次塩尻市総合計画(2005年からの10年計画) 
 さまざまな指標が平均以上でありながら一般的には印象が薄い塩尻市という都市の弱点をいかに克服し、ブランド化するかが大きなテーマでした。この流れで、市のブランド力を高めた「えんぱーく(塩尻市市民交流センター)」の構想にも携わらせていただきました。
 どんなコンセプトの施設にするか、どの活動にどれだけ配分するか、運営体制で縦割りにならない工夫、図書館の機能をいかに多分野に生かすかなど、市民と市と設計者の意見を整理して、創造的な解を導き出すお手伝いをさせていただきました。
 えんぱーくは今年開館10周年を迎えました。当時のコンセプトが今も引き継がれ、当初年間40万人の来館者目標が現在は70万人に。大変うれしいことです。 
―SCOPの今後のミッション
 自分の住んでいない地域に入り、行政や地域の行動計画を作るわけですから、この仕事は簡単ではありません。
 私たちの役割は、何が地域の課題か、何を目指すべきかを、さまざまな情報を集めて分析し、関係者の意見も聞いて、誰よりも突き詰めて考えたアイデアを分かりやすい言葉にし、皆さんに示すことです。
 問題の核心に迫り、関係者の意識や行動に働き掛けられるような提案をしていけるかが常に問われていると思っています。
 幸い組織が18年持続してきたことで、さまざまな情報や知識、人的ネットワークが蓄積され、より的確な速さで、問題の特定や解決策の提案ができるようになっています。
 またネットワークを生かすことで、地方の課題である高度な人材の確保にも取り組んでいます。信州大学・松本山雅と連携した「信州100年企業創出プログラム」では、大都市圏から地元経営者の右腕になれるような人材を呼び込み、定着を図っています。コロナ禍もあり、都市から地方への人材の流れは、より加速する可能性があります。
 将来振り返った時、「あそこで手を打っておいて良かった」と思えるような仕事になるよう、さまざまな案件にこれからも取り組んでいきたいです 。

【すみ しんいち】 44歳、岐阜県岐阜市生まれ。1995年信州大学人文学部入学。同大学院在学中の2003年にNPO法人信州・大学地域連携プロジェクトを設立。05年からSCOPに改名。現在24人(役員含む)体制で長野県内を中心に多数の行政計画策定、社会調査、市場調査、住民会議運営等に携わっている。
特定非営利活動法人SCOP
松本市中央2丁目3番17号知新堂ビル3階-A
☎87・1936 http://npo-scop.jp/