【像えとせとら】「穣雲」(泉小太郎、大町市常盤)

石の中から訴える思いは?

大きな石の中に閉じ込められたような子どもの像。「ここから出して!!」と叫ぶ声が聞こえてきそうだ。恐る恐る近づいてみると、大きく開いた左手を突き出し、「こっちに来るな!」と言わんばかりの険しい表情で、こちらをにらんでいる。
田園地帯が広がる泉地区の、泉公民館の田んぼの前にある。なぜこんなところに?どうして石の中に?石にはタイトルを刻んだプレートが埋め込まれているだけ。裏に回って裸のブロンズ像を注意深く見ると、背中に小さな背びれが!
設置者の高瀬川右岸土地改良区に尋ねると、その昔、湖だった安曇野と松本平を、母の犀竜と共に陸地に変えた「泉小太郎」の像という。1990年から5年の短期間で一帯の農地約146ヘクタールを整備した際、その事業を地域の伝説になぞらえ、完成の記念に同市出身の彫刻家、合津眞治さんに作ってもらった。
除幕式に出席した改良区の奥原崇晃事務長(56)は「初めて見た時は、驚きを隠せなかった。泉小太郎といえば『まんが日本昔ばなし』の竜と子の姿を思い描いていたから」と振り返る。
「竜は水を支配し、天に昇り雲となり、慈雨を降らす。日本の稲作はこの豊かな水のたまもの」と合津さん。じっと見ていると、石が竜にも雲にも、水のようにも目に映る。立ち去ろうとしたら今度は「待って!行かないで…」。そんな声が聞こえた気がした。