【記者兼農家のUターンto農】#23 農機具メンテナンス

農業経営機械いじりの技術も

機械音痴だ。それなのに、あるいは、それゆえか、機械への信頼度が高い。壊れることを考えていない。
先月の連載で紹介した緑肥、ソルゴーの破砕作業中のことだ。トラクターの運転席で、警告灯の一つが点灯していることに気づいた。普通運転免許を取って20年超、自動車も通じて初めて見る乗用機械の赤い光だ。
動きに異常はない。切りのいいところまで続けようと思った。
だが間もなく、ボンネットから「キュル、キュル」と音がする。エンジンを止めた。白い煙が上がった。
急いで、別の場所にいた父を呼んだ。ボンネットを開けた。「ファンベルトだ」。父の視線の先には、傷んだゴムの綱。経年劣化し、冷却システムを動かせなくなった、ということらしい。
父に「警告灯はつかなかったか」と聞かれた。「ついた」と白状した。「運転を続けたのは、ほんの2、3分」と付け加えたのは、われながら言い訳がましかった。
信じるなら“悲鳴”もちゃんと受け取らないと。「そうは言ってもしばらく大丈夫でしょ」と、これも一種の正常性バイアスで、警告灯を軽くみた。私の機械への信頼は、独り善がりの妄信だった。
私と対照的に、父は機械マニアだ。同タイプのファンベルトを調達して、交換した。トラクターは復活し、私は胸をなで下ろした。
業者に出張修理を頼んだら、1万円はかかった。もしエンジン系統がやられていたら、数十万円は覚悟しなければならなかった。
持続可能な農業経営には、土いじりだけでなく、機械いじりの技術もいる。
父は作業前の注油にうるさい。潤滑油が部品を長持ちさせる要諦だという。ソルゴーの作業でも、破砕装置にグリースを足さず、きつく注意された。
壊さないためには、異常のサインを見逃さないこと。警告灯の無視は話にならない。
このうえ、修理技術のマスターか。機械音痴に、長い道のりが待っている。