【野遊びのススメ】#13 平出遺跡で火おこし体験

「古代のロマン」感じて

たき火を見ながら、ふと思う。この火を一からつくれたらなあ。ロマンを求めて憧れるのは、木をこすり合わせる古代のやり方だ。体験教室に行ってみた。
訪ねたのは、平出遺跡(塩尻市宗賀)。縄文、古墳、平安時代の復元施設が、広々とした草地に点在する。その脇に立つガイダンス棟の庭先が教室だ。かやぶき住居を吹き抜ける風を受けながら、火おこしに挑む。
木の摩擦熱で火を付ける方法は、いくつかある。今回体験したのは、錐揉(きりも)み式と舞錐(まいきり)式。平出博物館の田中公男さん(66)が指導してくれた。
錐揉み式は、火おこしと聞いて真っ先にイメージする方法だ。両手で拝むように棒を挟み、板に押しつけながら、一心に回転させる。
「とても上手ですが、火は出ないと思います」と田中さん。褒められているのか、けなされているのか?聞けば、錐揉み式はとても難しく、田中さんは成功した人を見たことがないという。私も棒先が少し熱くなる程度で音を上げた。
縄文人の怪力を思い知ったところで、舞錐式の道具を渡された。細長い板に穴を開けて錐揉みの棒を通し、ひもでつなぐ。板を上下に動かすとひもが棒に巻き付き、回転する仕組みだ。
さっきとは比べものにならないほど力強く棒が回る。「音がキュッ、キュッじゃなくて、シュッ、シュッとするように」と田中さん。「その音、その音。その調子、その調子」。褒め上手に乗せられる間に棒の先から煙が上がり、黒く焦げた木くずが出てきた。
息が切れ始め、二の腕が痛くなるころ、木くずが指の先ほどにたまった。火種だ。手であおり、赤いおき火にする。麻くずで包んで火箸でつかみ、水平に振ると、炎が上がった。「おおっー」。思わず声が出た。
こすり始めてから、ものの数分。子どもでもできる。錐揉みから格段の技術進歩に感嘆した。だが、舞錐の発明は江戸時代になってからという説もある。改めて古代の遠さを思った。
「中山道ウオーキングから寄り道する人もいます。今の時期は、ブドウ狩りのついでに来る人も」と田中さん。なるほど遺跡の周囲には、旧街道の名残や現代の観光スポットもある。5000年の営みの重層を行き来し、楽しむのもロマンがある。

【火おこし体験】平出遺跡公園ガイダンス棟(TEL0263・52・3301)で、道具一式を無料で借りられ、希望すれば助言もしてくれる。松本市立考古博物館(同市中山、TEL0263・86・4710)でも舞錐式が体験できる。両施設とも予約不要(悪天候時は不可)。弓矢飛ばし、勾玉(まがたま)作りなども体験できる。