【像えとせとら】山屋御飴所のカエル(松本市大手2)

戦時あめ携行「無事“帰る”ように」

江戸時代から続く老舗あめ店の前を通り掛かる。歴史を感じさせる建物や、看板も味があってすてきだ。あれ?2階のテラスの両端にカエルがいる。屋根の上の定番といえば、しゃちほこやシーサーだけど、なぜカエル!?
同店代表で14代目の太田喜久さん(59)によると、2体のカエルは陶製。1933(昭和8)年に建てられたスクラッチタイル張りの店構えと、違和感なく合っている。意外にどっしりとした体つきで、大きさは60センチくらいか。
2体は同じかと思いきや、「阿吽(あうん)のカエルです」と太田さん。よく見ると、店に向かって右側は口を開き、左は閉じている。寺社の仁王像やこま犬と同じだ。
太田さんによると太平洋戦争時、市内のあめ店は旧日本軍から注文を受け、何軒かで大量に作って松本歩兵第五十連隊に納めていた。米あめは腹持ちがよく、兵士の携行食として戦地に赴く際に持って行ったそうだ。カエルは12代目の郷原宗恵さんが「兵隊さんが無事“帰る”ように」と軒に上げたという。
店の正面に「御飴陶器山屋商店」の店名が残るように、同店はかつて陶器の卸もしていた。「カエルは東海地方の取引先に頼んで焼いてもらったのでは」と太田さん。屋根の上で80年ほど過ごし、足の先が少し欠けているが、戦時中の松本の情景や人々の思いを今に伝えている。