雨がくれた驚きの共演“水滴美術館”
16日午後、雨降りとなった北アルプス乗鞍岳。日本一高い標高2716メートルを走るシャトルバス路線「乗鞍エコーライン=県道乗鞍岳線」沿いで、高山植物のイワツメクサに付いた水滴に、背後で咲く高嶺( たか ね)の女王コマクサが映り込む、不思議な光景に出合った。
バス道路から見上げる高さのイワツメクサと、後ろのコマクサとの位置関係を重視し撮影場所を決めた。雨足が強くなり、イワツメクサの葉や茎に付いた水滴が次第に大きさを増していく。直径5~8ミリに成長した水滴の中にピンクのコマクサの花が逆さに映り、優美な雰囲気を際立たせている。
接写用のマイクロレンズを付け、撮影を開始した。突然、強風にあおられ水滴が全部落ちてしまった。一向にやまない風。霧も出てきた。自分の意志通りにならない自然写真の難しさを感じながら、ひたすら待った。
約1時間半後、撮影を再開。うなだれたイワツメクサの花の先端に付いた大きく長い電球状の水滴(写真左上)に目がくぎ付けになった。水滴に映り込み、デフォルメされたイワツメクサの白い大きな花びらがつくる三角の隙間に、コマクサのピンクの花がちょこんと映り込んでいる。驚きの新鮮な花風情を見詰めていると、花の精のささやきに命の鼓動が重なって聞こえてくるような気がした。
(丸山祥司)