【ブドウ畑に吹く風~記者のワイン造り体験記】#13 発酵管理

風味を決める酵母の手助け

11月初旬、松本市笹賀のガクファーム&ワイナリー。先月仕込んだワインはそれぞれ発酵が進み、醸造場は異なるワインが織りなす多彩な香りに満ちていた。
ワインの発酵は、酵母の働きによってブドウの糖が二酸化炭素とアルコールに分解されることで進む。発酵中、発生した二酸化炭素はブクブクと泡になり、アルコール度数が次第に高まっていく。
果汁の糖が全てアルコールに変化してワインになるまで、2週間から1カ月ほど。この間、白ワインはステンレスタンクで、香り成分を損なわないように比較的低い温度に保つ。上部にある発酵栓から出る炭酸ガスで、醸造場のあちこちからプクプクという音が聞こえた。まるでそれぞれのワインが、息をしながら生きているような感覚におそわれる。
一方、赤ワインの発酵は、果実味やこくを引き出すために常温で行い、二酸化炭素の泡で浮き上がった果皮(果帽)を果汁に沈めるピジャージュと呼ばれる作業を毎日施す。
「ワインの風味を決める上で、酵母が果たす役割は大きいんです」。高校時代、生物研究部だったオーナーの古林利明さんが力説する。自然界にはいろいろな菌(酵母)が存在するが、発酵中、おいしいワインを生み出してくれる酵母だけが健全に活躍してくれるように、働きを見守り手助けすることが重要だという。
記者も一緒に収穫したカベルネ・フランのピジャージュを体験させてもらった。タンクの前に立ち、樹脂製の槐(かい)を使って浮いた果帽を沈め、果汁に浸していく。発酵を促し、果実味や色、渋み成分のタンニンを引き出す、赤ワインにとって大切な工程だ。
簡単かと思いきや、果帽の厚みが30センチほどもあり、それを突き崩すのに苦戦。腰を据え、全身の力を込めて押すと、やっと果帽が崩れて液体と混じり合った。
現れた果汁は、仕込み当初とは色合いも香りも違ってきて、変化の真っ最中。「その子の個性を大切に、可能性を最大限に引き出す」。古林さん持論のワイン子育て論に、大きくうなずいた。