ベンチプレス武者修行の伊藤さん

師匠がいる松本で世界目指す

松本市沢村の伊藤貴裕さん(21)は、ベンチプレス競技の世界王者を目指して武者修行中だ。強くなりたい一心で、この競技の元世界王者の門をたたき、松本に移り住んで約2カ月。「ここを夢をつかむ場所にしたい」と、200キロ近い重りと格闘する毎日だ。

いつか師の記録も破りたい

伊藤さんは新潟県長岡市出身。高校時代にベンチプレスを始めた。スポーツトレーナーを目指して新潟市の専門学校(2年制)に進んでからも競技を続けたが、1年生の時に左大胸筋を断裂する大けがを負った。
「けがはしたが、とにかく強くなることだけを考えていた」。自身と同じけがを乗り越え、200キロ以上を挙げて世界王者にもなった松本市島内のトレーニングジム「B.A.D.(ボディアートデザイン)」のオーナー鈴木佑輔さん(39)を知り、直接指導を受けることを決意した。

迷いの中「松本に来たら?」

伊藤さんが初めて松本を訪れたのは一昨年8月。その日は警報が出るほどの大雨で、新潟から片道10時間かかった。しかし、鈴木さんの教えにはそれ以上の価値があった。
「200キロを挙げるまでのプロセスと、細かなフォームを知りたかった」という要望に鈴木さんは適切に応え、教えに従ってトレーニングすると実力がめきめきと向上。気が付けば毎週のように松本に通うようになっていた。
2年時の昨年、全日本選手権ジュニア(19~23歳)83キロ級で優勝するほどになり、今春専門学校を卒業。いったんは札幌市のジムに就職して競技を続けるつもりだったが、「競技者として、どうしてもしっくりこなかった」。8月、鈴木さんに心境を打ち明けた際にかけられた「松本に来たら?」という一言で、全てが決着した。
今は鈴木さんのジムで働きながらトレーニング。競技を続けるのを条件に、12月に市内のジムに就職することも決まった。伊藤さんは「師匠の近くにいてトレーニングができる」と喜ぶ。
6月に南アフリカで開かれた世界選手権ジュニア83キロ級で4位入賞。今後は階級を一つ上げて93キロ級で戦い、自己記録(192.5キロ)と共にジュニア93キロ級の日本記録(195.5キロ)を更新するのが当面の目標だ。
「生きていく中で限界に挑戦したり、具体的な目標があったりするのは、とても楽しい」と伊藤さん。「いずれは世界王者になり、師匠の記録(222.5キロ)も破りたい」と目を輝かせる。