【ガンズリポート】松本山雅 2度目の辰年 つかめ!再上昇の機運

前回辰(たつ)年の2012年は、松本山雅FCがJリーグに初参戦した年だった。以降の12シーズンは、序盤でJ1昇格を果たしながら、終盤にJ3まで降格し、浮沈が激しい年月を送った。Jクラブとして迎える2度目の辰年に、再び上昇の機運をつかめるか。関係者や、山雅に関わり後押しする人たちに聞いた。

間近で見るプロのプレー
ユースアカデミー・平出龍之介君(11、大町南小学校5年)

2012年生まれで、おじいちゃんもお父さんも辰年。3代連続はすごいっていうか、かっこいい。龍之介という名前は、お父さんとお母さんが付けてくれた。お父さんの名前には竜の字があって、高校までサッカーをやっていた。
幼稚園のときにお父さんとボールを蹴ってみて楽しかった。小学生になって山雅のスクールに入った。それまではJリーグも山雅も知らなかった。
山雅の応援にはよく行く。スタジアムでは、ボールを出すタイミングとか、もらい方とかプロのプレーが見られる。僕はDFやボランチをやっていて、参考になる。
サッカーは今も楽しいし、もっとやりたいし、プロになりたい。山雅のユースアカデミーがなかったら、県外に行くことになったのかな。目標はイングランドのプレミアリーグの選手。Jリーグの山雅でも活躍したい。

市民が支えてきたクラブ
後援会専務理事・風間敏行さん(61、松本市南浅間)

松本青年会議所の役員をしていたつながりで試合運営の手伝いをするようになり、2007年にボランティア組織「チームバモス」に参加してマネジャーに。クラブが株式会社になった10年に山雅後援会ができ、専務理事に就いた。
クラブと共にわれわれも成長しようと思ってきた。16年にはボラティア登録者数が381人になり、J1川崎と並んで全国最多クラスになった。
そして、それを上回る勢いでお客さんがアルウィンに集まった。押し寄せてくるという感じ。みんなプロスポーツに飢えていたんじゃないかな。
山雅はみんなでつくるクラブ。支えているのは、どこかのお金持ちじゃなくて市民だ。近年、その意識がどこか薄くなっていると感じる。J1のいい景色を見ちゃったから、「J3の山雅」に複雑な思いを抱くのは無理もない。
われわれも「日本一のボランティア」と、てんぐになっていたかなと思う。実際はコロナ禍もあり、ボランティアの数はだいぶ減った。
そのため昨年は、お客さんだけでなく仲間にも満足してもらおうと、例えば初めて参加したボランティアにはベテランとバディを組んでもらい、サポートを手厚くした。1年目の人がシーズン中に参加した回数は、前年の倍の平均6回になった。
1試合当たりのボランティアの数も、前年から10人増えて78人に。私はバモスの活動を始めた当初、観客100人に対してボランティア1人が適正と考え、ほぼ実現した。今年はさらに、ゆとりを持っておもてなしができればと思っている。
 
昨年、山雅の社員たちを前に話す機会があった。何十人もいて驚いたが、育成スタッフもいるので当然かもしれない。よちよち歩きだった組織が、ようやくサッカークラブとして形になってきたと感慨深かった。
昨季はJリーグ全体で49番目の順位だったという現在地を自覚し、J3を楽しんで昇って行けばいい。ボランティアの活動は上向きにできた。クラブも上向きになればいいと思う。

選手個々の成長に手応え
クラブ運営会社・神田文之社長(46)

昨季ホームゲームの入場者数は1試合平均8181人。10月15日の信州ダービーまでは前年を上回るペースだったが、結果は200人強の減少だった。J2昇格を逃したトップチームの成績の影響が大きいと感じる。
ただ選手個々については、これまでで一番と言っていいほど成長したと感じる。試合だけでなく練習も見たが、J3得点王になった小松蓮選手だけでなく、シーズンを通じて成果があった。
選手や指導陣についても、一つの方向を目指したまとまりは、これまでのチームでトップレベルだった。霜田正浩監督には今季、攻撃の質を上げ、失点のリスクを減らすサッカーをしてほしい。
2012年、私は現役引退から7年ぶりに松本に戻り、山雅の運営会社の社員になり、3年後に社長に就いた。この間クラブはJ1を2度経験した。順調に成長して高みを見た分、昨季などは現在地のJ3へのリスペクトを欠いたところがあった。勝ち抜くのが難しいリーグだという現実を受け止め、「J2復帰」というより「J2昇格」を目指す気持ちでやりたい。
「山雅のファン・サポーターは“濃い”」とよく言われる。親が子を育てるように、勝っても負けても応援しようという思いで、8千人が来てくれる。皆さんと期待をそろえられれば、より密度の濃い、強いクラブになれる。ピッチの結果にこだわり、スポーツビジネスの本質を追求したい。地域がよくなれば、チームも強くなる。

地域とつながり高み目指し発信

地域といかにつながるかを意識している。事業や営業を担う部門は、10年前より格段に力を付けた。カテゴリーが下がっても、ホームタウン活動の質を下げたり量を減らしたりしていない。営業も地道にやっている。今はいわば仕込みの時期。再びJ2、J1に上がったら、以前よりもっとスタジアムに人を引き付け、支援が得られるはず。チームの成績につながっていく。
小松選手は山雅のアカデミー出身だった。J3得点王を輩出するのは簡単ではなく、クラブの歴史として誇れる。トップチームには稲福卓、神田渉馬、田中想来の3選手も昇格した。ハードワークや攻守の切り替えの速さは、アカデミーでプロとしてのベースが培われているというのが、霜田監督の評価だ。アカデミーのDNAというものができてきた。
社長に就いて10年目は、足元を見据えながら、より高みを目指す発信をしていきたい。将来、花開く成果を信じて応援してほしい。

メディア露出・集客でJリーグ支援強化
“ライト層”にアピール

Jリーグは昨年、各クラブに担当者を割り振り、支援を強化し始めた。クラブ単独ではできなかったり、気が付かなったりする取り組みを行い、サッカー全体のメディア露出や集客の増加につなげるのが狙いだ。
昨春、Jリーグ肝いりで「キックオフ!」と冠したテレビ番組が、全国30地域(45都道府県)で放映され始めた。長野県は「KICK OFF(キックオフ)! SHINSHU(シンシュウ)」(テレビ信州)だ。
Jリーグや女子のWEリーグの試合だけでなく、スタジアム観戦ガイドやタレントのサッカー体験といった内容を盛り込んだ。サッカーをあまり観戦しない「ライト層」の関心をつかむのが狙いだ。
それはJリーグのクラブ担当の活動にも通じる。山雅の担当者はクラブ事業・メディアサポート部の大栗博之さん。J1広島やJ2いわきも担当する。「松本は観客のユニホーム着用率が高くてびっくりした」という。
県内のテレビ局を訪ねて回る中で、ピッチ外の話題にニーズがあることに気が付いた。例えば、選手がプロデュースする喫茶山雅のメニュー。テレビ局の関心をクラブに伝え、メニュー完成までの密着取材につなげた。
大栗さんは、サンプロアルウィンにもライト層に訴求する要素があるとみる。「広大な敷地を使ったイベントやスタジアムグルメがあり、来るだけでも楽しみがある」。今後、事前告知の強化を山雅と考えたいという。