国宝松本城氷彫フェスティバル氷像に命 繊細な技競う

「国宝松本城氷彫フェスティバル2024」(1月26~28日)のメインイベントで、国内トップクラスの氷彫作家らが繊細な技で氷像を作り上げ、出来栄えを競う「全国氷彫コンクール・チャンピオンシップ」。13チームが27日夕から翌朝まで取り組んだ熱気と気迫に満ちた制作の様子と、当日しか見ることができなかった全作品を紹介する。
27日午後5時、会場の松本城公園で各チームが一斉に作業を開始。氷柱を切断し研磨する電動器具や、ブラシの金属音が会場に響く。チームは2人1組で氷像1体に長さ1メートル10センチ、重さ135キロの氷柱15本(約2トン)を使用。制作時間は12時間だ。
日付が変わった28日午前0時。氷点下6度と冷え込みが厳しくなる中、氷像が徐々に形作られ、各チームの制作の意図が浮かび上がってくる。真夜中の制作風景を見ようと訪れる市民や外国人観光客の姿も目立つ。
午前5時、制作終了。ライトアップされた天守を背景に、カラフルな照明を浴びる力作が幻想的に浮かび上がった。
審査の結果、最高賞の金賞は「深海のうたげ」に。審査委員長で長野氷彫倶※楽部会長の野田真一さん(61、松本市)は「深海にすむリュウグウノツカイとクラゲの生態と動感を見事に表現し、癒やしの世界へ誘った。創作力や技術力、表現力など全てが超ハイレベルで見応えある作品」と評価した。
銀賞の「まだ見ぬ世界へ」は、土台部分の工夫から氷の組み方まで細部にわたり絶妙だ。上下2匹の動物の曲線美と立体感、躍動感のバランスが見事。世界でもトップレベルの表現力が際立ち、見応えがある。
銅賞は「優美」。全体のイメージがきれいな作品だが、デザイン的に見ると女性の曲線美の表現を一部欠いた箇所があり、惜しまれた。
「特別賞」には、安定感と細部にわたる表現が優れた「炎翔(FIy with Fire)」が選ばれた。
今回は癒やし系の作品が目立ち、入賞もした。審査には会場を訪れた観客の投票結果も反映されており、野田さんは「コロナ禍前と比べ、作品に明らかな変化が見られた。癒やしを求める世相の表れのような気がする」。
氷彫作家が徹夜で命を吹き込んだ氷像が、夜明けの光を浴びて松本城天守や北アルプスを背景に輝く。この絶景は、冬の松本が誇る宝物だ。

ベテラン作家と夢の作品 安曇野の高見美穂さん

会場入り口にあった氷像「ASTERISK(アスタリスク)」は、氷彫界の大ベテラン木村裕昭さん(56、東京都)と、画家でもある高見美穂さん(41、安曇野市豊科)の作品。中心に今年のえとの辰(竜)を置き、放射状(星形)に十二支を散りばめた斬新なデザインが目を引いた。
高見さんの絵を見た木村さんが「彫ってみたい」と話したのが始まり。絵を基に木村さんが設計図を作り、二人で夢の作品を彫り上げた。
「ウサギはどこ?」「あそこに犬が!」と、自分のえとを見つけて喜ぶ観客の姿に「探す楽しみがあり、見る人との一体感がうれしい」と話した高見さん。今月中旬に米アラスカのフェアバンクスで開催される国際的な氷像コンテスト「世界アイスアート選手権」でも腕を振るう。

(丸山祥司)