海×青×クジラ テーマのアート

「心に寄り添うアートを」塩尻市の米窪さん

海×青×クジラ─。アトリエ「ブルーエンターテインメント」を主宰する米窪京祐さん(29、塩尻市大門五番町)の作品のテーマだ。絵、オブジェなど枠にとらわれず創作する。
子どもの頃から海が大好き。毎週父に連れて行ってもらい、釣りやもり突きなどを楽しんだ。大学では海に関する学部に進学したが、仕事は営業職を選び、一時海と離れた。
忙しい毎日を送る中、「流木に触りたい」。そんな衝動が突然起こった。「心が悲鳴を上げていたのに気づかなかった」と米窪さん。会社を辞めた。
病床でイメージが湧き、木でクジラを彫り始めた。手に取った人が喜ぶ姿を見、心が決まった。笑顔になってもらう、見ている人の心に寄り添う。そんなアートを目指すという。

身近な存在の海 アイデア尽きず

青くきれいな海に差し込む光。泳ぐ1匹のクジラ。米窪京祐さんの絵だ。見ていると海の中へ引き込まれそうな気がする。「青は自分。優しさや愛情、思いやりを含んでいる。同時に冷酷さ、冷たさ、残酷さも。全てひっくるめて自身と受け止めている」と米窪さん。
塩尻市出身で、海は毎週通うほど身近な存在だった。神奈川県の北里大海洋生命科学部に進学。卒業後は食品会社に就職して営業を担当した。「同級生が就職活動をする様子を見たり、両親に恩返しをしたいと思ったりしながら、流れの中で社会人になった」
海と全く関係ない仕事。ある日、不意に「流木に触りたい」という衝動が起きた。「海を表現したい」という思いも。「人と話すことが好き。自分ならできる」と選んだ営業職だが、心が「無理」と叫んでいることに気づき、仕事から離れた。
退職後は全く別の道へ進んだ。職業訓練学校に入り、電気工事を勉強。同時期、知人のコーチング講師が企画したセミナーのツアーの、しおりの表紙絵や挿絵を頼まれた。図案は当然クジラにした。コロナで寝込んでいるとき、頭に浮かんだクジラのイメージを木に彫ったのもこの頃だ。クジラで人に喜んでもらえた|。クジラとアートがつながった。
彫刻は、木材の中から形が見えてきてそれを彫り出す。「絵を描いている時は違う。頭と右手を誰かに貸している感覚」という。「こうしてほしい」というアイデアがどんどん浮かんできて、それをかなえる。その繰り返しで、「絵は会話のよう」と米窪さん。「こうしてほしい」は尽きることがないため、「常に最高な未完成作品」と表現する。

感動共有したい 個展やコラボも

昨年、山梨県で知人との2人展を開いた際、自分で自分の作品を見て「クジラの存在の素晴らしさを感じた。それをつくり出す海はすごい」と感動したという。こうした感動を共有できる環境をつくりたいと模索。クジラだけに執着するのではなく、「自分自身という青」と向き合うようになった。
青は海を連想させる。「今はインクの色で青を伝えている。海は遠くから見ると青だが、水を手ですくうと透明。これを表現することが今後の課題。見る人の心の中にある青を抽出したい」と力を込める。
3月24日には塩尻市の市民交流センターえんぱーくで、インスタレーション(空間芸術)の「飛翔」を発表。4月28日~5月5日、ギャラリーノイエ(松本市大手3)で個展を予定している。9月には、伊那市の伊那文化会館プラネタリウムで、音楽と動画のコラボ展も予定する。
「作品を通して見た人が自分を見つめるきっかけになれば。自分の作品が、みんなにとって向き合える海でありたい」と米窪さん。地球をもっともっと青くするのが夢だ。

米窪京祐さんインスタグラム