【記者兼農家のUターンto農】#128 温暖化対策

準備進む高温に強い稲作り

昨年11月の立冬から左かかとの骨に入っていた針金が、やっと抜けた。柿の収穫中に遭った骨折事故から4カ月弱、身の回りの農業報告を再開したい。
この間に二十四節気の雨水(うすい)を迎えた。農耕準備が始まる時期とされる。今年も暖冬で、花の便りが足早に届いている。折しも気象庁が6~8月の予報を発表し、長野県を含む東日本は60%の確率で平年より気温が高くなるという。昨年の酷暑が思い出されてしまう。
昨年、うちの稲作は米粒にひびが入る「胴割れ」が多かった。厳しい残暑が稲穂から水分を急激に奪ったのではないかと思った。
そんな推測に沿うような話を米作りの達人から聞いた。40ヘクタール超を耕作する宮澤ファーム(安曇野市三郷明盛)の取締役、宮澤和芳さん(39)だ。昨年は暑さで収穫適期がだいぶ短くなった。収穫が遅れてしまった米に胴割れが出たという。
そんな中で、変わらず収穫できた品種があった。「ゆうだい21」という。出品した「米・食味分析鑑定コンクール」の一部門で初めて金賞を受けた。
この品種はコシヒカリに比べて出穂が遅い。その分、実る時に暑さの影響を避けられる。収穫も遅く、適期を逃さなくて済む。
宮澤さんは、ゆうだい21のもちもちした食感が売りになると作り始めたが、高温対策になることにも注目し、今年は作付面積を倍にするという。
一般にはまだコシヒカリがほとんどで、うちのような零細農家はなおさらだ。だが、近い将来、一変するかもしれない。県農業試験場育種部(須坂市)が暑さに強い品種開発に取り組んでいる。
胴割れや、やはり暑さで被害が増える「白未熟粒」が発生しにくい品種を目指す。温室を使った試験栽培を始めて10年近く、「特に最近、農家の危機感が強まっている」と力が入る。長野県の気候を考えて、高温とともに冷害にも強い品種が理想という。
短期、中期それぞれの目標を見すえ、温暖化の下での稲作準備が進んでいる。