信州の日本酒「美食の国」へ イタリアで福源酒造の酒紹介

「一掬招万福(いっきくまんぷくをまねく)」。一掬(すく)いのおいしい酒は、たくさんの幸福をもたらす―。そうした願いを込めた言葉で、池田町の酒蔵・福源酒造の社名の由来だ。
イタリア・フィレンツェで4日に開かれる、在イタリア日本国大使と在フィレンツェ日本国名誉領事が主催する、日本文化に焦点を当てたイベントで、同社の日本酒が供されることになった。
同社の酒は「熟成」が一番の特長だ。18カ月以上寝かせることで、色がつき、まろやかで奥深い味に仕上がる。「淡麗辛口」が流行しても、ぶれずに醸し続けた味だ。
創業260年以上。年間約40石(1升瓶換算で約4千本)しか醸造しない信州の小さな蔵の「SAKE」が、「美食の国」イタリアで認められた。

ぶれずに追求「熟成」の味

4日にイタリア・フィレンツェで開かれるイベントは、在イタリア日本国大使と在フィレンツェ日本国名誉領事の主催。会場は、フィレンツェにある旧メディチ家の邸宅などとして使われてきた15世紀の建物、トルナブオーニ・パレスだ。
さまざまな日本文化を紹介する内容で、イタリアを中心に欧州政財界の約150人が参加するという。
今回は「SAKE TRADIZIONALE GIAPPONESE(サケ トラディツォナーレ ジャポネーゼ)」と題し、日本酒に焦点を当てる。
福源酒造は、3蔵が参加する中のメインの酒蔵に選ばれ、同社の主力商品「福源純米大吟醸(無濾過(ろか)、生貯)」「福源純米(無濾過、生)」「安曇野純米」の3種類を持ち込む。他の2蔵は同社が推薦した山形・福井県の酒蔵だ。
昨年9月に、在フィレンツェ日本国名誉総領事のラウドミア・プッチ・ディ・バルセントさんを通じてイベント参加の打診があったといい、福源酒造の創業家、平林家の18代目で、総合企画部長の平林聖子さん(64)は「突然の連絡でびっくりした。ワイン文化が根付いているイタリアから、信州の中でもこんな小さな酒蔵に光を当ててもらいうれしい」と喜びを語る。

日本酒の味わい 世界に広めたい

平林家は1758(宝暦8)年から続く酒蔵だが、銀行、鉄道などの事業も営んだ。1941~49年は戦争の影響で一時、酒造りを休止し、50年に復活した。
一貫して「手造りの醸造の可能性を探り続ける」ことにこだわってきた。一つの到達点が長年、研究を重ね、2000年頃から造り始めた「熟成酒」だ。
元々、「骨太」な味わいの酒だった。その製法をさらに押し進め、発酵の終わったもろみを清酒と粕に分離した時点から18カ月以上熟成させる。そうすることで、まろやかで、どっしりとして奥行きがあり、バランスの取れた「福源酒造が追求する味わい」(平林さん)に仕上がるようになった。
しかし、00年前後の流行の味は、すっきり軽やかな「淡麗辛口」。「真逆」ともいえる熟成酒の認知度は「まだまだ低い」(同)という。
熟成酒の醸造を始めた頃からスペイン、米国などに輸出を始め、イタリアにも昨年から送るようになった。その縁もあり今回、公のイベントで振る舞われることになった「池田町発の熟成酒」。平林さんは「これを機にウイスキーやワインと同様に、熟成させた日本酒のおいしさを多くの国の人に知ってほしい」と期待。「日本酒が日本を代表する酒として世界に広まってくれれば」と未来を見据えた。