[創商見聞] No.95 特別編 クロスロードクロスオーバー 次世代経営者育成塾ピックアップ座談会

 多様化する中小企業、小規模事業所の経営支援を目的に、松本、大町、塩尻の各商工会議所は「広域連携支援事業」を展開している。「創業・経営支援」を中心に商工会議所と企業の取り組みを紹介する「創商見聞 クロスロード」を月1回掲載。第95弾は、特別編「クロスロード クロスオーバー」と題し、4月16日に松本商工会議所で開かれた「次世代経営者塾報告会・ピックアップ座談会」をまとめた。
 次世代経営者塾は松本・大町・塩尻商工会議所が主催し、昨年6~12月にかけ全8回24時間にわたり、経営アドバイザーの瀬畑一茂さん(ATEHAS)が塾頭を務め開かれた。4回目を迎えた同塾の参加企業は13社。当日行われた報告会の後、過去にクロスロードで取り上げた企業を含む5社と瀬畑さんが集まり、塾が終了して半年たった現在の所感などを語り合った様子を紹介する。

塾頭 経営アドバイザー ATEHAS 瀬畑一茂

時代遅れの洋食屋 おきな堂木内 伸光

ITソリューション ユリーカ 青山 雅司

乗鞍の温泉の宿 Raicho藤江 佑馬

小さな村の 小さな酒蔵 美寿々酒造熊谷 直太郎

白骨温泉 湯元齋藤旅館齋藤 聡介

経営理念の大切さ

おきな堂 木内伸光さ

 洋食屋のおきな堂を20年経営してきた。かねて自給自足のビジョンを持っており、念願だった農業の会社「ちゃんとてーぶるファーム」を親戚と昨年立ち上げた。塩尻商工会議所の創業塾に通っていた年で、次世代経営者塾にも呼びかけられて参加した。
 おきな堂の事業だけだったら加わっていない。農業会社を立ち上げ、栽培も営業先も増やしながらの状態で大変だった時期。良いタイミングだったので参加させてもらった。
 言い方は悪いが、期待せずに参加したところ、瀬畑さんの講義が非常に興味深く、つぼにはまった。異業種の視点からたくさんの意見をもらえたことも大きい。さまざまな意見を聞きながらベストを選び、仕事に反映できた。 
 実は、数年前にも農業をやってみたが、うまくいかなかった。食材をどう安定的に調達するか。当時も考えたが、明確な答えを出せなかった。今ははっきり分かる。「視野が狭かった」からだと。作った野菜をいかに自分たちだけで使い切るか、しか考えていなかった。周りの飲食店とシェアする発想がなかった。農産物の流通経路を、現在は構築できている。作った野菜をストレスなくぜいたくに使えるようになったことは大きい。
 おきな堂とちゃんとてーぶるファームを、別会社として捉えていたが、これからはすみ分けせず、グループとしてやっていきたい。おきな堂は再度土台づくりをする。社長が味や衛生を管理するのではなく、スタッフが管理できるよう、明確化したプロセスを構築したい。生産物はグループ外にも最大限に提供し、売り先も押さえる。
 塾を通じて再確認できたことは、やはり経営理念から導かれた目的と方向性が大事ということ。目的も方向性も1㍉もずれてはいけない。
 瀬畑塾頭から講義の中で再三再四、経営理念の重要性の話をされた。正直むずがゆいというか、こっぱずかしいところがあったけれど、経営理念を会社は大きく持って良いことも理解した。小さい考えにとどまる必要はない。理念が大きいと成長し、発展できる可能性も感じる。 だから、掲げる理念は「やさしは、食にある」。世界の食を立て直したい。農業者がもっと稼げるよう、農産物を販売するだけでなく、発展し展開できるようにしたい。幾つかアイデアがあるので、長い視点を持ち、ライフワークとして経営を続けたい。

覚悟をもって

ユリーカ 青山雅司さん

 第1期に参加できるタイミングがあったが、とても仕事の忙しい時期で参加できながった。3年が経過しても、相変わらず仕事は忙しい。でもこの辺で冷静に頭を整理し、自分を見る機会が必要かも、と考え参加した。東京から通い続けるのはしんどかったけれど、皆勤できた。
 人の会社の課題を本気で経営感覚を持って考えること―。そういう機会はなかなかなかったので、貴重な時間だった。齋藤さんなど、今年から経営者になった方々も参加され、フレッシュな意見や自分と別の視点を持っている経営者からの話も聞けて、とても刺激を受けた。
 自分が「決めつけの経営」をしていたことも、諭してもらえた。改めて広い視野を持ちたいと思う。「行動宣言」を作成した時、とても悩んだ。独自性の高い、さまざまなオンリーワンの会社の話を聞いた上で、自社の独自性をどう出すか、とにかく考えた。世の中にはシステム会社もIT企業もたくさんある。誇りにしてきた「43年の信頼と実績」と決別し、チャレンジする時だとも感じた。
 塾でメインコンテンツ「行動宣言」作成後、アクションを起こし社員に伝えているが、まだまだ「ふーん」という感覚で、腹落ちしきれていないと思う。コツコツと伝えたいし、行動で示していきたい。見よう見まねだが社内勉強会をやり始め、じっくり話す時間を大事にしている。
 でも古参の社員に「理解はしたけど、寄り添えないから辞めます」と言われ、離職された。本当に社員との会話や関わり方、浸透は課題で、難しい。
 だから自分自身へ「覚悟せい」と思う。なまじ社長になると、いろんなことができ、逃げ道もあるが、目をそらさず、行動宣言を実現させるためにも、改めて最後まで頑張って突っ走りたい。

事業承継から成長へ

Raicho 藤江佑馬さん

乗鞍の温泉の宿Raichoを経営して9年が経過した。実は今年、二つ会社を立ち上げた。一つは一般社団法人信飛トレイル準備委員会、もう一つは株式会社CODO。三つのマネージメントをどうするか考え、自分がレベルアップするためにも見つめ直す場があればと感じ、塾に参加した。
 経営理念などある程度取り組んできたが、より具体的な行動指針に落とす必要性を感じた。 
 自分はこの地に移住し、宿を事業承継した。赤の他人の引き継ぎだったが、塾に参加して、肉親から事業承継する場合の難しさも教えてもらい、とても勉強になった。
 また「組織に所属することで安心を確保したい社員」の話や、「経営者が経営側と同じように社員に起業家精神を強制するようなことはできない」という話を聞けたことはとても役に立った。三つの法人をマネージメントするためにも、スタッフへの任せ方のあんばいはとても重要だと思う。人は育てるより育つものと考えていたが、きちんと経営を見極めスタッフを育てなければいけない、と自覚も高まった。
 行動宣言では、「社員6名の給与を県の年齢別給与水準に到達させる」と唱え、今年4月のベースアップで達成できた。でも、ほとんどの社員が20代だからできたので、30代、40代、家族を持った社員たちなどを支えられるかは課題。給与水準を保つためにも、一つ一つの仕事を丁寧にこなし、利益をつくれるようにしたい。     

独自のスタンスを

湯元齋藤旅館 齋藤 聡介さん

昨年社長を引継ぎ、右も左も分からなかった。もっと勉強しないといけない感覚があったし、何かをつかみたかったので塾に参加した。最初は講義などで「社長の心得」みたいなことを教えてもらえるのかな、と想像していたら、全然違った。
 参加企業といろんな価値観・視点を出しながら意見交換し、進めていけたことは、とても有意義だった。新しい出会いだったけれど、特別に深い縁があるわけでもない方々が、自分の会社のことを真剣に考えてくれるのは、ありがたかった。旅館の中にいると、どうしても外部の考えが入ってこない。取引業者との情報交換にも限界がある。さまざまな指摘をストレートにされるのは、経営を肌で感じ直接触れているようで、とても勉強になった。
 塾を終えて半年、行動宣言を達成できないことが多く、もどかしい。改めて会社経営より、「家業感」が強かったと思う。多様な価値観がひしめく時代、身内が多い社内でも、兄と弟ですら価値観が大きく違う。血肉を分けた肉親とどう融合させていくか。簡単ではないが、相手を理解した上で自己表現してすり合わせていかないといけない。
 やはり会社経営の上に家業と連動することが大事で、塾から学んだ多くの視点を武器にしたい。家業の良いところを残しつつ、会社を持続し発展させていくことが、これからの歴史を守っていくことになる。
 単なる事業承継ではない、独自のスタンスを見つけられるよう考え続けたい。

答えのない問い

美寿々酒造 熊谷直太郎さん

2年前に社長の父が病気になり、酒造りがほぼストップ状態となった。その時、経営を全く知らない自分がいて、なんとかしなきゃいけない焦りがあり、塾に参加した。グループ発表を何度も重ねてもらったが、各企業とも一筋縄ではいかない重い課題を持っていることが分かった。それぞれ「答えのない問い」のような課題だったが、自分たちで討論を重ね答えを作っていくのが新鮮で、仲間になっていく感覚があってよかった。
 でも、正直塾に通うのは気が重かった。予期しない質問に瞬時に答えられないことが多く、経営力のない自分を再三感じた。2年連続で受講し、経営理念を元に方向性を示すことの重要性を学べた。初期的なことかもしれないが、ふに落ちたし、心に焼き付けられた。
 答えのない問いに答えを出すことは、考えるだけでなく行動していかなければできないと思う。
 今後、社長になった時、理念を行動にしっかり移せるのか楽しみでもある。失敗の可能性もあるけれど、行動を止めてはいけない。自主的に恐れずチャレンジし、念入りに事業承継していきたい。

多様な価値観の共有を

コメント総括 塾頭   瀬畑一茂さん

 塾の開催日は2週間に一度だが、この間での取り組みが最も重要な「学び」となるプログラム設計にしています。業種や年齢など全く関係なく、参加者全員が経営者として必要な視点から、また仲間との率直な議論からそれぞれが刺激し合って、視野を広め、視座を高めることができる「場」としてきました。個別にミニレクチャーなどもしましたが、参加者の置かれている状況によって問題の捉え方が違うことも興味深い。想定していないものが出て「考えること」がポイント。多様な価値観を共有できたと思う。
 教科書的な答えではなく、今後も塾の経験などきっかけにして「考える」ことを深め、そこから自分なりに答えを探し続けてほしい。
 第1期から第4期の開催を通じて『共通言語』を学んだ受講者による交流会が定期的に開催されるなど、次世代経営者育成塾のコミュニティーが構築されてきていることは、当塾の企画者としてもとてもうれしく思う。中信エリアの企業を力強く率いていってほしい。今年度から始まる第5期の受講者の参加を心待ちにしています。
(聞き書き・田中信太郎)松本商工会議所
広域専門指導員 大久保 明 加納 健司