【記者兼農家のUターンto農】 #2 マルチシート

きれいに敷けない「ピカピカ」…

ふと、近所の畑が陽光でピカピカしているのに気づく。そんなふうに春の訪れを感じる人はほかにもいるかもしれない。
光の正体は「マルチシート(マルチ)」。薄いビニールフィルムで畝(うね)を覆う。皿に載った食べ物をラップで包むイメージだ。触った感じはラップよりちょっと厚め。表面のデコボコに春の光が乱反射する。
私にとって、マルチは幼いころからおなじみだ。そのころ実家では、ジュースなど加工用のトマトを作っていたが、畑にマルチを敷くのは、いまのリーフレタスと同じ。学校が休みの日には、敷くのを手伝った。
幼なじみの素性をよく知らないまま大人になることがある。それと同じで、マルチは何をしているのか、私はよく知らなかった。
畑に細長く筋状に土を盛り、マルチをかぶせていく。風雨で形が崩れないようにするためだろうと何となく思っていた。だが、もっとすごいヤツだった。水分を逃がさず、肥料が流れ出るのも防ぐ。雑草や病原菌がでしゃばらなくなるので、有機栽培でもよく働く。
土の温度調節にも役立つ。まだ日光が弱い春先、黒マルチが熱をため込んでくれるおかげで、露地でもリーフの苗を植えられる。陽気がよくなると、日光をはね返す白マルチにする。境目は定植時期の5~6月、と父は言う。畑の見た目が黒から白に切り替わる理由が、やっと分かった。
薄皮1枚あるかないかで大違い。ちょっと考えれば分かりそうなことだが、それがコロンブスの卵というものなのかもしれない。
ただ、考えるより気をつけなければならないことがマルチにはあった。端まできれいにきっちりマルチを敷く。それが最も重要なのだ。
しかし、父が描く作業工程のようにはなかなかいかない。どうしてもずれが生じる。春の訪れを感じさせるあの「ピカピカ」をちゃんと張るのは難しいのだ。