【小林千寿・碁縁旅人】#5 盤上の革命

グーグル傘下のディープマインド社が開発したプログラム「アルファ碁」が世界ナンバーワンの中国人棋士・柯潔九段と対決した時の開会式=2017年5月末、中国・烏鎮(ウーチン)

どうなる?本因坊戦

5月から始まり6月に佳境に入る「本因坊戦七番勝負」。その第5局が6月21、22日に松本市の松本ホテル花月で打たれます。
本因坊・井山文裕(もんゆう)(=雅号、本名・裕太、32歳)は9連覇中で、10連覇に挑んでいる最中(高川格九段の9連覇とタイ)。
対する挑戦者の芝野虎丸・王座(21歳)は昨年に続いて本因坊に挑戦(昨年は1勝4敗)。2019年に史上最年少の19歳11カ月で「名人」を獲得し、日本囲碁界の最先鋒(せんぽう)の一人です。
現在、井山本因坊が1勝2敗で、4局目が10、11日に北九州市で打たれます。その結果によっては、松本で新本因坊誕生もあり得ます。待ち遠しいタイトル戦ですが、コロナ禍で通常の大碁盤解説、指導碁などがあるかどうか、現在は分かりません。
ところで、この「本因坊」というタイトルは、1612年に徳川家康が「碁所」を定め、「一世・本因坊算砂」から始まり「二十一世・本因坊秀哉」まで世襲制でした。
1936(昭和11)年に時代の流れから今の毎日新聞社のタイトル戦となります。
世襲制最後の本因坊秀哉は1938(昭和13)年に引退碁を私の師匠・木谷實(当時29歳)と打ち、その観戦記を書いた川端康成は、秀哉没後に十数年かけて小説「名人」を執筆。15カ国語に翻訳され、世界中で愛読されています。
さて、その引退碁の5年前の33(昭和8)年に木谷實と呉清源が信州・地獄谷に籠(こも)って構想した「新布石」を発表。革命的な新しい打ち方で共に大活躍しました。
そして今は、4年前、人間を超えた「アルファ碁」、人工知能の出現から盤上は大革命が起き、それをいかに受け入れ自分のものにできるか試されている時代。この本因坊戦は人間の英知で七冠を制覇した井山本因坊と人間を超えた人工知能から学びトップに躍り出た新しい世代との対決とも言えます。(日本棋院・棋士六段、松本市出身)