逆風に立ち向かう強さ
よろいかぶとを身にまとっているわけではない。マントをなびかせ、逆風に立ち向かう人の姿か?高さ40センチほどの抽象的なブロンズ像が「強さ」を感じさせる。クラフト教室と喫茶を兼ね、女性客も多い場所に、なぜこの像があるのか不思議に感じていた。
ここはホテル玉之湯の敷地内で、以前は「ギャラリー喫茶翡(ひ)翠(すい)」だった。像は25年ほど前、ギャラリー喫茶の開設時に、当時玉之湯の社長だった山﨑良弘さん(66)が設置した。
像の作者は、立科町にも住んだ大阪出身の彫刻家、西森方昭(ほうしょう)さん(1939~2020年)。山﨑さんは「凜(りん)とした雰囲気と、抽象的なフォルムに引き付けられた」と振り返る。
西森さんは家業の製薬会社の社長を務める傍ら、創作活動をした異色の経歴の持ち主。50歳を機に会社を譲り、家族と立科町に移住して作家に専念した。社会的なモニュメント彫刻を多く手掛け、晩年は大分市で子どもたちに絵画や造形を教えたという。
強い信念を持ち、前へと突き進んでいく「武将」。山﨑さんは「未来のいろいろな可能性に、前向きに進んでいく姿を選んで良かった」と感慨深げだ。
今は、人々が交流する場に静かにたたずむ。作者の西森さんも喜んでいるかもしれない。抽象的な像の顔が、ほほ笑んでいるようにも見えた。